2020年5月19日火曜日

巡礼小説 潔

巡礼ドラマ小説   (いさぎ)

  第一章  夢



あたりは、木々の隙間から木漏日が漏れ、清流は淡々と流れている、遼子は、旧暦朔日のお水取りに、沖縄本島最北端、辺戸の大井うふかーにいた、柏手を三つ、国津神の領地であるこのあたりは、とたんにざわめいた。



雨がぽつり、額をぬらす、木漏れ日が雨に変わった、見上げると白光の舞のようだ、無に点在するそれに包まれ神事をこなす、至福の瞬間である、「あの時と同じだ」

 遼子は、芭蕉布(ばしょうふ)の里、大宜味村喜如嘉(おおぎみそんきじょか)に住み、七滝を守する神人(かみんちゅ)である、幼いころ父親は事業に破綻し山中で帰らぬ人となった、その後、母の実家である喜如嘉で成長した。

 母はそのことをなにも語っていない。

 遼子は中学卒業後に村をで、沖縄県の中部コザ市のレストランに勤める。Aサインのその店は、主に米軍将校達が利用し、休日ともなるとその家族連れで賑わい、息つく暇もないほどの忙しさ、ペチコートをスカートの下にまとう、華やかな米婦人、皮靴を履き蝶ネクタイをする子供達、キャデラックを、簡単に運転する主人、そんな光景にあこがれる毎日が続く。



  昭和三十年代、コザは乾いていた。夜ともなると、ダンスホールは、米兵の狂喜とハイボールが交じり合い、地元青年達は、日頃の劣等感を打ち消すように、かれらを挑発し、争い事も絶えず、エネルギーはゆきばを失っていた。内気な遼子もそこでは違った、いい知れない抑圧感を爆発させるかのように、休日のたびに出掛けて行った。

 ある夜、米兵に絡まれ、店の外に逃げた、台風接近のため風も強く雨も激しい、BC道りのネオンがバチバチと火花を散らし通りには誰もいない。

 基地と反対がわの中の町通りの角に、裸電球が荒波で遭難し掛けた小船を導く、灯台の灯かりようについている。ハイヒールを脱ぎ捨て、裸足で逃げる遼子、なおもしつこく追いかけてくる、灯かり前で転んだ、花柄のピンクのワンピースが、みるみる泥に染まる。闇と共に白く大きな手が足首をつかんだ。

 「誰か助けてー」ありったけの力を振り絞り、叫んだ。灯かりのついた、工事現場から、男がパイプレンチを持ちながら、飛び出してきた。体格が白熊と、猟犬のように違う、気を失いながらも、男が琉球空手を駆使し、勇猛に戦う姿がおぼろげに見える。優しい腕に抱えられ、安堵感がひろがった。

 裸電球が目にまぶしい、気がつくと作業員詰め所の、ソファーの上だった。「うう…、あ・・ありがとうございます」やさしそうな目をして、角刈りの男が、温かいお茶を差し出した。洋介である。

 洋介は、藍(あい)の栽培が盛んな伊地(いぢ)を、中学卒業と同時にでて、水道工になった。幼い頃、太平洋戦争で、父を亡くし、女手一つで育てられていた。

 それから三年、二人は結びを取り世帯を持つ。

 程なく、男の子が生まれた。隆である。平安な日々が続き、水道工である洋介が独立、基地関係の仕事も多く、高度経済成長になり、二十人ほどを雇う会社になる。家も新築した、洋介はなおも会社を拡張し公共工事も受注するようになった。隆が小学入学のときである。

 遼子はある夜夢を見る、〈黒い水の川があり、木橋が朽ち果て、その前で男の人がぽつんと、錆びた刀を持ち立っている。〉不吉な予感がしたが、せわしい生活にかき消され忘れていった。

 そのころから、洋介が摸会(もあい)を起こし座元になった。沖縄では頼母子講(たのもしこう)、摸会いが盛んで、月に一回数人が、掛け金をだし総合扶助が目的で行われていた。しかし洋介のは違っていた、掛け金が数百ドルもし、破綻となれば座元の負担も莫大で、遼子は心配した。「なにもなければ良いが…」

 数年たち、世間では復帰運動、海洋博構想、時代はうごめいていた。洋介の摸会いは海洋博関連に投資するため、掛け金が数千ドルにも達していた。

 それは突然に始まった、隆、小学高学年のころである。摸会が破綻し、数万ドルが洋介にのしかかり、洋介は行方不明になる。

 熾烈な取りたて、けたたましくなる電話のベル、債権者の罵声、そのときある夜見た夢が、脳裏をかすめる、「黒い川、朽ち果てた木橋、、男の人、刀、」、洋介の行方は知れず会社が倒産、債権者が押しかけてくる、幸い遼子は、会社に関係なく、洋介の母夏子に諭(さと)され、離婚し喜如嘉に隆とともに戻る。

 法的に責任はなくても、逃げてきた自分、今だ愛しく思う洋介のこと、そんなことも、芭蕉布(ばしょうふ)を織る機(はた)のおと、香り、七滝の清らかな水、そんな喜如嘉のリズムに傷ついた心が癒(いや)されていく。

 茶の間でうつらうつらし、庭のくわず芋を見てると、虹の橋があり、きれいな女の人が微笑んでいる、うつろいながらも、自然と涙がこぼれる、遼子は小さくつぶやく「ありがとう」

 数年たち、隆も中学卒業進学した、日本復帰も終え、若夏国体が始まっている、洋介は未だ、行方不明で、時の便りに関西方面で、水道工として働いていると聞いていた。遼子は、北部国道沿の塩屋赤はしの近くで食堂をはじめている、虹の橋ときれいな女の人を見て、「ありがとう」とつぶやいたあの時の、気持ちを忘れず、お客さんに、喜んでもらおう。自然の理である。その気持ちが人々に伝わらないはずがなく、優しい味のする、店は繁盛し、洋介の残した、負債も徐々に返済していった。

 そんなある日、リックサックを背負い、二十代の男の人が二人店に入ってきた、注文を取りに行くと、これから喜如嘉の七滝に行くという、「大学関係の方ですか」と遼子がたずねた。喜如嘉やその周辺は、本土の大学関係の人が、良く研究にきていて、自然と口に出たのである。

 「ハァハハ、僕達は、神人(かみんちゅ)で那覇から来たんだよ、七滝にウガンしにいくんだよ」と言い、今まで何度も来ていて、「ここの店はとてもおいしいから、ねぇさんも、神人だろうなと、いま話ていたんだ」と言った。




 遼子は、喜如嘉の出身で、七滝には良く行き、でも神人ではないことを告げた。

 そこで男の人が、七滝のことを語ってくれた、「あそこは、滝の中腹に、きれいな女の神様が降りて来るんだよ、滝も虹色だよ」と言った瞬間、遼子は全身鳥肌がたち、食堂のいきさつを一気に話し出した。



 男の人も、「ねぇさんも巡礼したほうがいいよ、僕ではないかもしれないけど、だれかについて勉強したほうがいいさー」と言って、食事を済ませ、帰ろうとするが、遼子も、〈普段は、厨房にいて、ホールに出ることはなく、これも何かの縁だから〉と、連絡先を聞いた。〈時期が来たら又あえるだろう〉と言われ、そのときは別れた。

 神人とは、おもに個人で沖縄を巡礼し、森羅万象(しんらばんしょう)から悟りを得ようとする人をさすが、この時の遼子には理解しがたく、我に返ると、不安になり連絡もせず。それから数ヶ月が過ぎた。

 残暑のこる、旧暦八月のころ、明け方、全ての歯が抜け落ちる夢を見はっと起きだした。「カ・ミ・ン・チ・ュ」五つの語が繰り返し繰り返し、涌き出てきた。

 その日の朝、母親トミが屋敷のウガミをする準備をしていた。〈旧暦八月八日前後までに、済ませないといけない〉と言う、それまで何の興味もなかった遼子は、四十台に成り始めて、喜如嘉の各ウガン所についていった。それが終わり、母親に今朝の夢のことや、那覇の神人、の事を話すと、〈好きにすれば良い〉と言われ、食堂であった男の人に連絡をし、一路那覇へと車上の人となった。

     




    第二章  巡礼


那覇の中心地、国際通りに着く、戦後焼け野原になった沖縄で、湿地帯であったこのあたりに闇市等が出現し、いち早く復興した地域である。奇跡の1マイルと言われている。

 路地に入ると今だそのころの香りがするようなとこで、男の人の事務所もそんな場所にあった。茶色の扉を明ける、白木の壁が続き、神棚があり、奥のほうに男の人が腰掛けていた。



 「朝お電話した、大宜味の仲地遼子です」遼子が言うと「与座と申します、遠いところお疲れさんです、どうぞ腰掛けて下さい」と優しそうに言った。




 ソファーに腰掛け、一瞬の静寂のあと、男がなにも聞かず、漢字二文字ずつすらすらと書き始めた。

 「満時、素行、菊治、暗龍、立切」書き終わると、「何でも言いから聞いてください」男が言った。

 「食堂で七滝の話を聞いたあと、行かなければと気にはなっていましたが、今朝、全部の歯が抜け落ちる夢を見、気味が悪く、そのあとカミンチュと言う言葉が、繰り返し繰り返し、涌き出てくるので、与座さんのとこへ行こうと思い…歯が抜ける夢なんて大丈夫でしょうか」と不安そうに聞いた。

 「ワハハハハ、」男が笑い、遼子がキョトンとしていると、「遼子さん、心配ないですよ、子供から大人に生まれ変わると言うことですよ、乳歯から永久歯に生え変わるでしょ、それと同じですよ、ここに書いているように、〈満時〉、は時期が来た、〈素行〉とは、素直とか元とか、言いかえれば神のもとに、行けと言うこと、〈菊治〉とは、菊が咲き始めるころから始めよと言うこと、歯が抜けるのも、大人になって〈カミンチュ〉に成れと言うことですよ、カミンチュと言っても、必ずしも私みたいな仕事をしなさい、と言うことではなく、自然から勉強しなさいと言うことで、難しく考えることはなく、巡礼でウガンすれば自然とわかりますよ」と男が言った。

 遼子を、何かしらないけど、ワクワクするような、そんな安堵感が包んだ、「巡礼と言っても、何もわからないので教えてください」と言うと、

 「巡礼と言ったら、難しそうだけど、沖縄では、〈ご恩上げ(ぐうんあぎ)〉、と言い、全てのものから恩を受けているのだから恩返しの旅にで、素の自分を発見するということです、その中で自分の守護神、遼子さんの場合は、虹の橋にいた女の人のこととか具体的にわかってきます。

 はじめに自分の生まれたとこから始めます、拝所は、〈火の神〉、〈ウタキ〉、〈龍宮〉、〈カー(井戸)〉の四ヶ所からなっており、それを組み合わせて巡礼します。遼子さんの場合は、喜如嘉ですか、そこからはじめます、もちろん家の火の神、トートーメーがあればそこもご恩上げします。

 次に〈東廻い(あがりうまーい)〉、と言って南部の拝所に行きます、次に〈今帰仁上い(なきじんぬぶい)〉と言って、北部今帰仁(なきじん)を中心に巡礼します、そのあと本島を中心に東西南北の拝所に行きます、基本的にはそこまで、その後は各個人でいろんな巡礼地があります。

 喜如嘉ももちろん行きますよ、線香はこの用に作りますので、これを参考にしてください、あと、〈ウチャヌク〉と言って、御餅と、果物三個くらい、小さい器に、酒、塩、米、水、この図の様にして、準備します、重箱とかそのほかは要らないですよ、巡礼地は険しいとこもあるので、リックサックにいれ、成るべくシンプルにしてください、個人差があるのであせらずに、ゆっくり頑張ってください」そう言うと、習字紙で包んだ線香と、酒等の配置を書いた紙をくれた。



 「よろしくお願いします」遼子は礼を言い帰ろうとすると、男が「ご主人さんのことは自然に解決するので心配しないで」といった。

 遼子はドキッとし、感情を押さえるように、事務所を出た。

 国道を走らせていると、洋介のことが浮かんで消えない、倒産の前に見た夢も、「もし洋介に会えたら、一緒に巡礼したい」遼子はそうつぶやいていた。

 旧九月二日、男に言われたように準備し、巡礼の始まりである。トミもついていった。カー、ウタキ、リュウグウ、ヒヌカン、拝所でご恩上げするたびに、昔の記憶が走馬灯のようによみがえってきた、父のいない寂しさ、幼いながらも母を気ずかい口にしなかった自分、友達のこと、懐かしいにおい、どんどん涌き出てくる、こみ上げる感情を押さえながら家に着く。

 家の火ぬ神も終わり、父の仏壇の前で、ご恩上げすると、トミが「遼子ごめんね、あんた、父さんの事聞きたかったんだね」と泣き崩れてしまった、それを聞きながら、手を合わす遼子、過去の記憶が、洗われていく。

 小学校の父親参観の日、母トミが、申し訳なさそうに、教室の隅に背中を丸くしながら、立っている、丈の合わないズボン、白い開襟シャツ、農協の帽子を深くかぶりながらも遼子を見ている。

 母には悪いと思いながらも、「恥ずかしい、来ないでって言ったのに、早く帰って・・!」うつむきながら、心の中で叫んだ。

 柏手(かしわで)を三つ、静かに、静かに涙が零れ落ちて行く、御恩上げが終わる。これ以上押さえ切れなくなり、母を抱きしめ「お母さん、良いのよ謝らなくて、私こそごめんね」、と優しくまるで、赤子を抱くように言った。

 老母が、赤子に戻り、遼子の胸で鳴きつづける、母と子が同時に素の状態に戻った瞬間である。

 その後トミが語り始めた。

 「お父さんは、本部町具志堅の出身で、私達は度久地に住み、お父さんは、そこで鰹漁していたんだよ、あんたもそこで生まれ、しばらくして船も買い人も雇い、必死に働き船も二隻になったころ、一隻が八重山で遭難し、お父さんは助かったのだけれど、学校卒業したばかりの若い男の子が、見つからなかったんだよね、お父さんは全ての財産を処分し、その子の親に渡し、それでも悔いて、山の中で帰らぬ人になったんだよ、生きてほしかったけど、男の人は大変だからね、今は気持ちが良くわかるよ、優しく、たくましいお父さんだったよ」と微笑みながら語った。

 老母の顔が清んでいくのを遼子は感じた。

 電話でそのことを与座に告げると、「ああ生まれたとこは、本部度久地でしたか、今帰仁巡礼の途中だし、場所も知っているので急いでいくことはないよ、次はアガリウマーイ、だね都合の良い日が解ったら連絡ください、あせらずに頑張って」といわれ受話器を置いた。

 旧十一月、新暦では十二月になり師走である、喜如嘉のあるヤンバルも朝晩は冷え込んできた、遼子は那覇で与座と待ち合わせ、沖縄県南部知念(ちねん)村に向かっていた。

 「そうですか、お父さんにそんなことがあったんですね、戦前度久地は鰹漁が盛んでしたからね、鰹か…」与座が言った。

 「あの後母がとても明るくなったというか、すっきりしてます」

 「それはよかった、お母さんも、〈フトウカレ〉たんですね」

 「あのう、母が知り合いから聞いた話では、〈チヂウリ〉というのが有って、先祖が遣り残した事とか、特に私の場合、母も私も夫が仕事がらみで、いなくなり一人で子供を育て、それってチヂウリていうんですか、友達は、神様のところに行くより、先祖の事からするべきよ、と言うし、どうなんでしょう」遼子が聞いた。

 「そうですね、確かにチヂウリ、というのがあって良く聞きますね、でもお父さんとご主人さんの、場合は違うと想いますよ、それに先祖をずっとたどっていくと神にたどり着きますからね、そういうことより、遼子さん自信がないので、そういう情報が入ってきていると思いますよ、それと、拝所でご恩上げする時、神様の前だからきちんとやろうとか、考えないでください、自然に行動してください」与座が答えている間に、知念村ティーダ御井(うかー)に着いた。

 知念村ティーダ御井は、琉球王国時代国王が巡礼途中にお水取りをした場所で、海岸沿いに有り遠くに、勝連半島、久高島も見える。



 白い鳥がやってきた、二、三回旋回し、御井近くの岩に止まり、まるで遼子がご恩上げするのを見ているようだ。




 ひととおり済ますと、「なんか感じましたか」と与座が言った。

 「夢中で…何も感じてないと思うんですが、何かありますか?」遼子が言うと、

 与座は、岩のほうを見ている、そのさきに白い鳥が止まっている「遼子さんが、ご恩上げするのを、あの白い鳥がずっと見ていましたよ、後から何かわかると思うので、覚えていてください。それと、ここまで来る時の階段がとてもきつかったでしょう、先祖も一緒についてきているよ」与座が言った。

 確かに遼子は、来る途中、階段がとてもきつく、今にも座り込みそうだった。

 「あのう、私に霊が憑いているんですか」遼子は気味悪そうに聞いた。

 「いやそうではなくて、なんて言うか、昔ご恩上げしたくても、できない先祖の〈オモイ〉が、強いと言うか、先祖の方も応援しているということですよ、そんな気味悪そうにしないでください、ハハハ」与座が笑いながら言った。

 帰り道、来るときとは断然違い足が軽い、遼子のDNAが一つずつ、開いていく。

 巡礼は続く、知念村垣の花ヒージャー、百名(ひゃくな)ヤハラツカサ、知念村ウローカー、巡礼の過程で、只夢中にご恩上げしてく中で、遼子自身も、微妙な変化が解ってきた、息遣い、祝詞を読む速度、周囲の風景、拝所、拝所で違うリズム、バランスを読み取っていく。





 知念村斎場(せーふぁー)御嶽(うたき)に車は入っていく、琉球王国時代、最高の霊域である。あたかもそのような雰囲気が漂い、石畳を歩くと、古(いにしえ)の鼓動が感じられる、内部は四,五箇所拝所があり、最後にいった頂上でのご恩上げの終わった後である。




 「遼子さんすごいぞ、あれ見て!」与座が大声で言った。

 遼子が見ると、遠く久高島が見え、その左側に、七色の虹が、それも二本、でているのである。遼子は絶句し、自然と合掌した。




 「二本虹が出たか、もう一つはご主人さんに関係あるかもしれないな、戻ってくると思うよ」と与座が言ったとき、絶句しながらも、同じ事を遼子も思っていた。

 南部巡礼が終わり、レストランで食事をとる、「どうでしたか、遼子さんはリアクションが少ない分、何も感じてないように見えるが、胸のうちは、スーパーカー並に回転して、いろんな事考えているのでしょう」与座が聞いた。

 「何て言うか、どこの拝所もすごくて、今までの自分が小さく感じ、同じ水のとこでも、あそこなんて言いましたっけ、石畳を下り、勢いよく水が流れているとこ…」と遼子が言った。




 「垣の花(かきのはな)ヒージャーでしょう?」。即座に与座が答えた。「そうです!あそこは何か、力強い男の神様が、両手を広げて、立っているような気がしたんです。とても太く、優しい手で…」と遼子が言い終わらない間に、「ピンポーン、大当たり、遼子さんすごいじゃないですか、あそこは、古事記の中にでて来る話で、天岩戸に、日の神様が隠れたとき、引っ張り出した、〈タヂカラオの尊〉、と言う神様がいるんだよ、僕も何回か行ってわかったんだよ、参ったなあすごいよ、そうその調子で、自信を持ってください、始めのティーダ御井で気味悪がっていた遼子さんとは、雲泥の差があるよ、〈チヂ〉が上がるのも早いでしょう」感心しながら与座が言った。

 「そんな風に言われてもわからないんですけど、沖縄なのに、内地の神様とか、古事記とか、関係あるんですか、それとチヂと言うのはどういう意味ですか」

 「もちろんですよ、日本の始まりは、沖縄で、それと古事記なんかも参考までに、読んでおいたほうがいいでしょう、チヂというのは守護神のことです、〈チヂファー〉と言うんですけど、覚えておいてください。」

 車は、与座を降ろし、大宜味に向かっていた、今朝、与座に言われた「自身がないからそういう情報が入ってくるのですよ」と言う言葉を思い出し、今朝の自分がとても小さく感じ。早く今帰仁にも行きたいと感じていた。遼子の中の何かが徐々に変わり始めていた。




第三章  カミンチュ

 


新年も明け、遼子は、食堂と家の往復という日々が続いている、仕事も終わり一息つき、三番座で巡礼の線香を作っていると、「遼子、何しているの」幼なじみの、葉子が突然やってきた、開放的なヤンバルではよくあることだ。

 「葉子、上がって、ああこれ、今帰仁上いの線香を作っているの」

 「ナキジン・ヌブイ?」

 「この前、アガリマーイ、終わったので、今度は今帰仁にウガンしに行くのよ」

 「アガリマーイ?あの門中で、ウガンしに行く、東回りのこと?」

 「ムンチュウ?、ああそう言えば、与座さんが門中でも三年とか五年おきに行くって言っていたね」

 「遼子!あんたね、そのなんていった、那覇のユタにだまされているんじゃないの、それも今度は、今帰仁まで行くんでしょ、あそこは、とても大きな神様で、普通の人は行かないよ、ユタとか、祝女の人とかしか行かないのよ、それにあんた祝女(のろ)の家系でもないでしょ、あんたは内気な性格だから、私が断りの電話するから、止めたほうがいいよ、洋介さんのこととか、心配なのはわかるけど…・」

 「ユタ、ノロ?違うよ葉子、私、神人に成るのよ」

 「カミンチュ!!もー大変、遼子!頭おかしくなっているよ、そのユタの人に、やっぱり騙されているよ、何百万円とか取られてから、大変するよー、この前七滝でウガンしたでしょ、東門(あがりじょう)のおばさんがそれを見て、共同売店で部落の人に話していたよ、『仲地小(なかちぐぁ)の遼子は、食堂で儲けたお金で、ユタ買(こ)うやーして、ウガンして歩いている』って、もう部落中評判よ!私もそれを聞いて、今日は来たのよ!」

 「ハハハ、葉子何言っているの、私がユタに騙され、何百万も取られるって、あんたのカラオケ通いより、お金も使わないし、神人というのは、何もウガンしなくても、画家とか、小説家とか、もちろん普通の人にも神人はいるのよ、サラリーマンにも、喜如嘉の芭蕉布織っている人にもたくさんいると思うよ、神人って〈自然に生きている人〉のことを言うのよ!」

 遼子の自信を持った言葉に葉子は、唖然とし、遼子自身も、自然に生きているという言葉に、自分でも驚いていた、考えた言葉では無く、自然と出てきた言葉だった。 

 〈神人〉、遼子の誕生であった。

 「遼子あんた変わったよ、どんなウガンしたら、そうなるの?ユタの人のウガンがうまいのかな」

 「一人でウガンするのよ、与座さんは、後ろで見ているだけよ」

 「あんたがやるの?ユタの人と一緒に座って、やるのが普通じゃない?」

 「もちろん、与座さんが、いろいろ教えてくれるけど、わたしが一人でやるのよ」

 「あんたウガンできるんだ、もうすぐ旧の二月だから、私のとこの、屋敷ウガンやってくれない」

 「葉子、あなたね、私にウガン止めさせるために、来たんじゃないの、何言っているの!」

 「ハハハ、そうだったね、忘れていたさー、今度、共同売店で、東門(あがりじょう)のおばさんにあったら私がきつく言っておくからね、遼子、頑張ってね!」

 「もういいからほっといて、何も言わないでよ、私は気にしてないから」

葉子も、うなずきながら、帰っていった。

 旧暦二月に入り、二月風マーイの季節風が吹き始めていた、今朝から母親トミが、屋敷ウガミの準備をしている。遼子もそれを手伝いながら、トミに聞いた。

 「お母さん、今まであまり気にしてなかったけど、この前旧十二月にも屋敷ウガンしたでしょう、一年で一回で良いんじゃない?葉子も三回もやるなんて多すぎるし、そのたんびに親戚のおばさんに頼むのもいやだし、中には毎回ユタの人に頼んで大変だって言っていたわ」

 「屋敷のウガミするのも、それなりに昔の人が考えたんだから、意味があると思うよ、私は詳しく知らないけど、二月は、ニンガチカジマーイがあり、あちこちから風が吹くから、体もおかしくなるでしょう、八月は、ヨウカビーとかあって怖いし、十二月はシリガフーといって、一年の感謝も込めてウガンするし、若い人はどう思うか知らないけど、大切だと思うよ、今でこそ、よその人にウガンしてもらう家も有るけど、昔は皆自分でやったのよ、母から子へ、、姑から嫁へ伝り、私もオバーから習ったのよ、それと昔は、屋敷も自分たちで作っていたから、御恩をいつも感じていたのよ、一年に三回でも足りないくらいよ! 先生も、〈グウンアゲ〉と言って自然に感謝するって、あんたも言っていたでしょ、それと同じさー、あんたもアガリマーイとか行って解ってきたと思うけど・・まだまだ大人に成らないと行けないねー、葉子さんも、あんたも四十になって子供も大きいと言うのに、まだまだ子供だからねー、〈しめーしっちょうてぃん、むのうしらん〉、子供はウガンできないよー」

 「お母さん、すごいね!なんか知らないけど、お母さんも神人だ!与座さんが書いてくれた、祝詞にも、同じ事書いているよ、〈学問はできても、物事の道理がわかっていない事〉って、与座さんが説明してくれたよ、屋敷のウガミのことも、お母さんと同じような事言っていた、それにお母さんから習いなさいって、今日私もついていくから、教えて!」

 「ダメダメ、まだまだ子供だから」とトミが、あきれたような口調で言い、風呂敷にビンシーを丁寧に包み、ウガミに出かけていった。遼子も断られながらもまんざらでも無く、うきうきしながら食堂へ出掛けていった。

 車を塩屋赤はしに走らす遼子、途中国道沿いの、屋敷の前でウガミをしている老婆を見つけた、硬いアスファルトの上に正座し、門に向かってウガンしている。旧二月と言っても、新暦三月の沖縄は日中暑くなり、アスファルトからの照り返しも強く、日差しも強い、そんな事は、気にするべくでも無く、ましてや人目も気にせず行なっている、気がつくと車を止め遼子は見入っていた。

 それを見ていると、巡礼初め頃、与座に言われた事を思い出した、線香を無造作に置こうとした遼子に、「遼子さん、線香を奉げるときは、こう両手で持ち、〈カミテ〉から奉げるんだよ、それだけでその人の品性、品格まで疑われるので注意してください、お母さんとか、他の人のを見て、柔らかさ、しなやかさを、もっと勉強して!」と普段は優しい与座にきつく言われ、その時は理解出来ず、むっとしながらも聞いていた。

 老婆のウガミする後ろ姿を見て、始めてその事を理解した、線香を奉げる時の、涼風がすり抜けるような手の動きと後姿、まるで優雅な舞を見ているようだ、「きれい・・」遼子はそうつぶやき、まだ子供だからと言う、母の言葉もわかるような気がした。

 食堂では、ランチタイムも終わり、ひと段落ついて、遼子と従業員の、小百合、悦子、豊子がお茶を飲み談笑していた。遼子が道すがらの先ほどの事を話している。

 遼子「今朝ここに来る途中、道端で屋敷のウガミしている、お婆さんを見たけど、とっても綺麗だったよ、私も早くあんな風になりたいな、こうして線香をかざして」   

 小百合「そうそう、〈カミテ〉っと言うんでしょう、小さい頃、お盆の時、おばあちゃんに、怒られた記憶があるな、昔のひとは上手だよね」

 遼子「あら、小百合ちゃん、知っていたの、わたしは最近わかったのよ」

 小百合「知ってるって、皆そうじゃないの?」

 悦子「なにその、〈カミテ〉というのは?」

 小百合「えっ、悦子さん知らないの、トートーメーとか火ぬ神に線香おくとき、こうやって、さっき遼子さんがやったように、両手で持ってするでしょう」

 悦子「ああそれね、言葉は知らないけど、自然とするしぐさじゃない、教えられたわけじゃないけど、片手で持って置くのは失礼じゃない!誰でもこうやって頭の上まで持ってきて・・」

 遼子「悦子さん、すごいわね、その波打つようなしぐさ、すごい、すごい拍手拍手!」

 豊子「遼子さん、なぜそんな事に感動するの?当たり前じゃない、誰でも出来るわよ、こうでしょう、あれ!悦子さんのようにすると、うまく行かないわね」

 遼子「そうね、悦子さんのように、優しく、しなやかにと言うわけには行かないわね、簡単なようで、難しいのよ」

 悦子「別に私が上手、というのではなくて、火ぬ神とか、毎日やるでしょう、自然とこうなるのよ」

 豊子「悦子さん、あなた火ぬ神に毎日線香上げるわけ!私なんか、一日、十五日、も忘れるときもあるよ、それに毎日あげると良くないとか言っていたよー」

 悦子「うそー、毎日線香上げてるわよー、実家の母がそうしてたから」

 小百合「どっちが本当なの、私結婚したばかりでよく解らないし、遼子さん知ってるでしょう?」

 遼子「私もよく知らないけど、結婚したとき母から習ったのは、毎日水を換えて、一日、十五日、は〈ウブク〉をお供えし、酒、花木を換えて、線香十二本三本をたて、そうでしょう悦子さん」

 悦子「そう、私もだいたい同じよ、毎日上げる線香は、三本だけど」

 豊子「ウブクか、私ぜんぜんやっていない、それに線香あげると、怖いのよ、神様に怒られそうで・・」

 小百合「豊子さん、なにかやましい事でも有るんじゃない、ハハハ」

 豊子「そんな!なにもやましい事は無いわよ、止めてよハハハ」

 遼子「豊子さんの、怖いと言う気持ちも大事だと思うわ、〈ウスリ〉だね」

 豊子「遼子さんなにその〈ウスリ〉って」

 遼子「私が巡礼でウガンしているのは知っているでしょう、その中で、〈一七本のウスリ線香(こうぶん)〉、というのがあるのよ、簡単に言えば、十八からは神様の領域だから、恐れ多くも十七までしか悟れません、と謙虚な気持ちを表した線香なの」

 悦子「そうそう、母が〈ウスリ〉をいれないといけないとか、言って聞いた事があるわ、そんな意味があるの、沖縄の線香ってすごいね!」

 小百合「小さい頃、母が火ぬ神とか、仏壇にウガミする後姿を見たら、なぜか安心したんだよね」

 豊子「………・・」

 客が入ってきた、「いらっしゃいませ!」全員が立ち上がり、仕事に戻った、遼子は、今の会話で、皆の意外な面を見、又、良い人たちが働いてくれていると、実感したのだった。神子(かみんぐぁ)達がそこにいた。

 旧三月、うりずんの季節がやってきた、ヤンバルの木々、緑もいっそう輝きを増してきた。

 遼子は、今帰仁上いの巡礼で、名護で与座と待ち合わせ、今帰仁村乙羽岳(おっぱだけ)に向かっていった。

 はしゃぐ気持ちを押さえながら、母の事や、従業員との会話を与座に話している。

 「巡礼初めの頃、先生に、怒られたときは気付かなかったのですけど、道端でウガンするおばあちゃんを見たとき、あの時の自分が、なんて品の無い事をしたんだろうと、反省しています。すみませんでした。神様もきっと、怒っていらしゃったでしょうね」

 「遼子さん、どうしたんですか、急に、謝らなくても良いですよ、・・怒ったつもりは無いんですけど、神様もそう感じているでしょう、気にしないでください、誰でも初めはそうですよ、僕なんかも初めの頃、祝詞を忘れたり、いろいろ有りましたから、それはそうと、お母さんは、すばらしい神人ですね、長年淡々と儀式をこなし、僕なんかも足元にも及びませんよ、それに、遼子さんも、神人が、〈自然に生きている人〉と、友達に言った事はすごいと思いますよ」

 「自分で言うのもなんですが、とっさに口にでて、自分でもびっくりしたくらいですから」

 「そんなもんですよ、ところで三月三日は、〈ハマウリー〉しましたか?」

 「ええ、毎年母や部落の人と行くんです、女の子のお払いだと言って、ハマウリーだけは小さい時から、母が学校を休ませてでも行ったので、欠かした事はありません。潮干狩りってそんなに重要なんですか?」

 「潮干狩りね、本当にお母さんはすごいと思いますよ、三月三日は、大潮で、干満の差が一年で一番激しいでしょう、女性は、出産とか月のものとか、いろいろあるので、小さい時から、ハマウリーすれば、そういうのもスムーズに行くんですよ、お母さんに感謝しなければ・・女の人は本当に大変ですから」

 「そういう意味があるんですか、おかげで隆の出産も、軽く、病院の先生がびっくりしてましたから、沖縄の行事って大事ですね、でも女ばかり、先生も言うように大変で、神様不公平ですよね」

 「確かにそうですよね、しかし、神様に聞いたら、〈本当は男がもっと大変〉だって、僕もなにが大変なのか、責任感とかあると思うんですけど、ピンとこないんです。遼子さん、なにか解りますか?」

 「喜如嘉でも、戦前は、火葬運動とかあって、女の人が先骨をやらなければ成らず、詳しくは知らないんですけど・・男がもっと た・い・へ・ん」

 「喜如嘉の火葬運動、なんかぴりぴりきますね、それもっと詳しく調べておいてください、今の会話ものすごく重要な気がするんです。オトコ、と、オンナ、ご主人さんにも…ところで、息子さんお元気ですか?」

 「今家にいないんです」

 「え!どうしたんですか!」

 「いえ別に変なことではなくて、石川の海員学校にいるので、寮なんです、家には、母と私だけです、子供だけど、家に男の人がいないっていうのは不安ですよね、子供が船乗りになるって行った時、反対しましたが、母が『おじいちゃんのような、立派な船乗りになれって』、小さい時から言い聞かせ、あの子、おばあちゃん子ですから、船乗りって、大丈夫ででしょうか?」

 「いやーますます、お母さんのファンになりました、おじいさんの志を継ぐ孫、すばらしいじゃないですか、心配無いですよ、あ、そこです」車は乙羽岳(おつばだけ)中腹に止まり、今帰仁巡礼の始まりである。 遼子は、〈男は大変〉という言葉が耳に残りながらも、スムチナ・ウタキへと向かった。

 スムチナウタキ、今帰仁村湧川(なきじんそんわくがわ)、天底(あまそこ)、クボーウタキ、とてもスムーズに巡礼が進んでいく。

 「こんなに順調な巡礼も珍しいな、次はお父さんの出身地の本部町具志堅(もとぶちょうぐしけん)です、今日はここで終わりです」与座が言った。



 遼子は、御恩上げの準備をし、柏手(かしわで)を三つ、祝詞奏上、与座が後ろで、ペンを走らせている。




 具志堅大井(ぐしけんうふかー)は、馬蹄の形をした、水量の豊富な湧き水である、馬が探し当てたのどそういう形になったと、言われている。遼子は父の事もありながらも、とてもさわやかな感じに包まれ、ご恩上げを終えた。そのことを与座に告げると「お父さんはすでに、神上っているということです、僕もそう感じました、依然心配していた、チヂウリーと言うような事は無いですよ」と与座が答えた。




 巡礼も終わり、与座が数枚の紙を遼子に渡しながら言った、「これは、今日僕が〈感とった〉ぶんです、遼子さんが書いたものと一緒に、ノートでも言いですから、まとめておいてください」

 「ありがとうございます、以前先生が、巡礼途中で感じたものを、書くようにと言われたので、アガリマーイの時から書いていたんですけど、その時のノートで言いですか?」

 「ああそれで言いですよ、ナキジンヌブイは、あと半分ありますから、それが終わって、〈チヂアワセ〉しますから、詳しい話しはその時にしましょう」与座が言った。

 名護で与座と別れ、家に着くと、トミに、具志堅大井のことを話した。

 「お母さん、具志堅大井とても綺麗で、先生も、お父さんは、すでに神様に成ってるって、言っていたわよ、チヂウリーは絶対無いって、安心して」

 「あんた、ウフカーも言ったの!ありがとう、ありがとう」と言い涙ぐみながら、トミが仏壇にそのことを〈報告〉した。

 「アートウトウ、サリサリ、父さん、遼子が今日ウフカーに言って、グウンアギ、してきたってよー、サリサリ、父さんが小さい頃よく遊んだって、名護でデートした時話していたよね、あの時のぜんざいもおいしかったねー、ウートウトウ、私は、怖くて行けなかったけど遼子が行ってくれたのよ、ごめんねー、神様になっていたんだね、父さん〈誠むん〉、だったからねー、成仏してねー、ウートートー」

とトミが報告を終わった。

 「お母さん、『成仏しているって』、いったでしょ!なに聞きいてるの!」と遼子が言う。

 「なんで!最後には、いつも成仏してねーて、言うさー、いいでしょう!」トミが、笑いながら言った。

 「それに、名護でデートしたとか、ぜんざい美味しかったとか、関係ないでしょ、ちゃんと報告してよ!」遼子も、噴出しながら言う。

 「エー!遼子、あんたなんかの時代は、レストランとか、サッサ店とか、たくさんあるし、那覇行けば、映画とか面白いのもあるでしょう、お母さんの時は、デートするのも大変だし、まして、そんなものは無くて、食堂で、ぜんざい食べるのが、最高のデートよ、お父さんも、よく話していたから、ウガミの時も口にでるさー」と早口でトミが反論する。

 「お母さん、サッサ店じゃなく、喫茶店でしょ、それは良いけど、〈誠むん〉、って何の事」遼子が聞いた。

 「誠ぬ者、って言ったら、誠ぬ者さー、正直とか、真面目とか、とにかく、〈男の人で神様みたいな人〉を言うさー」トミが言う。

 「オトコの人にしか言わないの、オンナの人は?」「あんた馬鹿じゃないねー、オンナに誠ぬ者とは、言わないよー、オ・ト・コだけ、オトコは大変だから」トミが言った。

 二十四節気の清明が過ぎた、ある日曜日、琉球の匂いが部屋中に立ち込める。〈シーミー〉の準備で、遼子の家は朝からてんてこ舞いである、隆も海員学校から帰ってきて、手伝っていた。トミと遼子が、〈てんぷら〉、〈こんぶまき〉、〈カステラかまぼこ〉、〈こんにゃく〉、〈デンガク〉、〈三枚肉〉、〈肉団子〉、の七品(ななしな)を、長年のオンナの営みを称えるように黒光る、琉球漆器の重箱に、詰めていた。

 「隆!飲み物買ってきて、あとそれに、ゴザと、クーラーボックスも車に載せて、おねがいね」

 「〈シーミー〉は、大変だ、おばーなんて、誰も食べないのに、何でこんなに、たくさんつくるのかなー、お母さん?」

 「お兄さん夫婦や、親戚のおばさんやおじさん、子供たちもたくさん来るから仕方ないでしょう」

 「沖縄料理なんて、誰も食べないよ、ハンバーガーやフライドポテトとか、他の食べ物にしてくれよ」

 「エー!隆!あんた今何て言った、ハンバアグ?、シーミーに持っていけるねー、沖縄料理は皆意味があるんだよ、三枚肉も、かまぼこも、昆布、とか、それに重箱に、皆奇数づつ、入れるでしょう、ウヤファーフジに、美味しいもの食べてもらうために、オバーは一生懸命作っているんだよ、それに、隆の好きな、肉団子もあるでしょう!、ウリ!『海員学校の先生方にも』、お土産もって行きなさい、忘れるなよ!」トミの後ろで遼子が、隆に目配せして、受け取るように指示した。隆が、仕方なさそうに受け取った。

 「おばー、ありがとうねー、俺が悪かったよ、ごめん、ごめん、でも俺、シーミーは好きだよ、皆でわいわい楽しくやりながら、おばーの作ったご馳走を食べて、ピクニックみたいで楽しいよなー、昨日も、学校の仲間に、シーミー行くって言ったら、馬鹿にされたけど、俺は好きだよ」

 「隆!あんたは小さい時から、お利巧で、誠ぐぁーヤサ、お利巧さん!」トミが涙ぐみながら言った。

 「おばあちゃんも、怒ったり、泣いたり、大変だねー、ハハハ」遼子が、目を細めながら笑う。

  国道沿いの亀甲墓(きっこうはか)に着く、普段は人気無いこのあたりも、車が数珠続きに成るほど止められ、あちこちで、歓声がわいたり、中には、三味線をひき、〈カチャーシー〉をするとこもある。

 そのとなりでは、顔のしわが、毎年繰り返してきた行事を誇るかのような、老婆が、オンナ達を、仕切り、それを絶対的君主のように、威光を放つ家長が、目を光らせ監視する、そこへ次々に来る、老若男女が、ひれ伏す様に、挨拶をする。 

 そんな戦前の家長制度を髣髴させるような光景も見られる、そこでは、社会的地位も、名誉も、一蹴するような、序列が存在し、老人が最も尊ばれ、普段は、わがままな子供達や、若者、男勝りな女性も、自分のあるべきとこを、確認し、息を潜めるかのように、縮こまる、そんな張り詰めた空気が支配している。

 遼子達も、ひさびさに合う、兄弟や親戚子供達と楽しく過ごしている。



 「お母さま、お手伝いも出来なくて申し訳ございません、茂治さんもお仕事都合できなくて、残念だと申していました。美味しいご馳走いただくばかりで、お盆の時は休暇をとりまして、お手伝いさせていただきます。」内地嫁(ないちやーよめ)で、臨床検査技師をする、理恵が言った。

 「良いんですよ、理恵さん、お仕事も大変でしょう、たくさん、召し上がってください。茂治もお世話、なっておりまする。」




 「いえいえ、私こそ茂治さんにおんぶしてもらっています、実家の母からも、くれぐれもよろしくとの事でした。」

 「そうですか、横浜の、ご両親様は、お元気でございますか。」

 「ええ、一度、お母様を横浜へ、ご招待しなさいと言われています。茂治さんも、賛成してらっしゃるみたいですので、横浜の、父、母とお母様と、茂治さんで、紅葉が身頃の秋口にでもいかがでしょうか、温泉も、ご案内しますし、ご都合のいい日お知らせください。旅行社に申し込んでおきますので。」

 「え!いや、これから、稲刈りとか、芭蕉布織りとか、忙しくなりますので、お気を使わないように、気もちだけ、受け取っとておりますので、ご両親様によろしくお伝えください。」とトミが青ざめた表情で、標準語を話しにくそうに、言葉を慎重に選びながら言った。

 「何でー、オバー行ったらいいさー、米も今は作ってないし、芭蕉布織るのも、忙しくないだろー、横浜かー、俺も行きたいなー、日本丸がとまっているんだよ、あそこは」とうらやましそうに、隆が言った。

 「ヤナワラバー、ダマトーケー!」トミが慌てて言った。

 「そうですか、お母様もお仕事、忙しそうですね。お暇な時、お正月ごろにしましょうね」

理恵が残念そうに言った。

 「お・か・あ・さ・ま、お線香はこれでよろしいでしょうか?」遼子が今にも噴出しそうに、笑いをこらえて聞いた。トミが歯軋(はぎし)りしながら遼子をにらみつけ、「ウビトーケードー」と小声で言った。

 シーミーが終わる頃、〈あとかたずけする〉と言う理恵を、トミが半ば強引に、お土産を持たせ、そそくさと、車まで送って行った。

 家に帰り、トミがげんなりしたよう顔で、三番座にへたり込んでいる。それを見た遼子が家に帰るなり、こらえきれず大笑いした。「ハハハハハ、もうおかしい!、お腹痛いーーー!、たすけてーー!」

 隆が、荷物を持ちながら、かえって来て、キョトンとしている。「おばーよ、行けばいいのによ、俺も一緒だったらいいだろー、後で叔父さんに電話するから、お母さんいいだろー」と遼子に聞いた。

 「た・か・し!じぇったい!電話するなよ!電話したら、おばーゆるさんよー!」へたりこんでいた、トミが玄関まで走って来て、電話をおさえながら、大声で怒鳴った。遼子の笑い声が止まらない。

 清明際も無事終わり、遼子が、次の今帰仁上いの、日取りをするため、那覇の与座に連絡した。

 「今晩は、ご無沙汰してます。大宜味の遼子です。次の、巡礼の日取りをしたいんですが?」

 「ああ、お元気ですか、次の巡礼ですか?旧四月は山止めになります、それが明けるのが、ハーリー鐘がなる頃ですから、そのあとに行きましょう、ところで、喜如嘉の火葬問題の件調べましたか?」

 「はい、今調べているところです、公民館に資料がありますので・・」

 「そうですか、それでは又電話ください」



   第四章  チヂアワセ

 





旧五月、ハーリー祭も終わり、ヤンバルでは、パインの出荷で大忙しである。梅雨ももうすぐ開け、イジュの花がさわやかだ、遼子と与座が、今帰仁上いの後半に入っていて、車は本部町塩川(もとぶちょうすがー)に向かっている、もうすぐ始まる、沖縄海洋博の開催のため、公民ともに建設の真っ最中である。




 塩川(すがー)は、塩分を多量に含んだ水が、懇々(こんこん)と湧きで、サイフォン説、その他諸説がある拝所である。

 遼子が御恩上げする、やわらかいしぐさ、暑い日差しの中も、燐とした、後姿を見た与座が感心したように、うなずいている。

 「遼子さん、今なにか歌が聞こえてこなかった」ご恩上げを終えた遼子に言った。

 「えっ!いえただ・・やはり気のせいです」遼子が言葉を飲み込むように行った。

 「何でも感じた事を言ってください、テストじゃないんだから、ノートにはちゃんと書いてるじゃないですか!」与座が答えを催促するように言った。

 「あのう・・、芭蕉布(ばしょうふ)の歌が流れてきたような感じがしたんです、オルゴールのように・・」

 「そうです!僕には、大宜味に行け、と言う用に入ってきました、当たりですよ、大宜味は、芭蕉布の郷(さと)で有名でしょ、チヂアワセの時は、一瞬の呼吸が大事ですから、言葉を選ばないで、淡々としゃべってください」

 そうです!、と間髪いれずに答えた与座の返事が、遼子を、研ぎ澄まされた日本刀で、真竹を真っ二つに切ったような衝撃が走った。

 塩川を出、巡礼は、部間(ぶーま)、屋部(やぶ)、名護城(なんぐすく)、と進み、今帰仁巡礼が終わった。

 「今日で、今帰仁上いは(なきじんぬぶい)終わりです、おつかれさんでした、どうでしたか?遼子さんのウガンする後姿を見ると、とても上品で綺麗ですよ、チヂアワセの感覚も、解っているみたいだし」

 「はい、大分慣れてきて、チヂアワセもなんとなく解ってきました、喜如嘉にすぐ行きたいんですが、いつ頃が良いでしょうか?」

 「そうあせらづに、熟成させてください、泡盛も新酒は美味しくないでしょう、その前に一度事務所に来てください、これまでのまとめも含めて、チヂアワセしましょう」

 数日たち、遼子が、巡礼のまとめをしている。

  巡礼ノート

    先生の判断

 一、スムチナウタキ「清流美、右ならえ、岩性、若東、」

 二、湧川「一点、糸道、トライアングル」

 三、新里屋「はじちさとぅり、うやぬてほんまなび、うまんちゅぬはなさかせ」

 四、天底「道広し、甲、紅悟れ」

 五、龍宮道祖紳「ラムノミナミ、五清考」

 六、西龍権現「一点集中、不言実行、親の勤めひきうける」

 七、エー川「先人徳助、光倫住む、優受け取った」

 八、クボー山母神「素作り業はげめ、職極め、」

 九、クボー山軸神「光取進、」

 十、子産ガマ「青はな、蜘蛛東、皿取り」

 十一、具志堅大井「一、実神、二、悟神、三、空紳

 十二、塩川「大太刀の助けたのむ」

 十三、部間権現「琉球国産考、名与、功徳君」

 十四、名護城道祖紳「下草のつらさ知り、大輪を咲かせ」

 十五、名護城火ぬ神「ラムチ、東極め、無にとどまれ、」

  自分の感じた事

    【アガリウマーイ】

 〈テーダ御井〉

始めて、先生の前で御恩上げするので緊張する、海のにおいがきつい。白い鳥がいる。孤独

 〈垣花ヒージャー〉

大きなオトコの人、腕が太い、とても優しい感じ。

 〈南部のウローカー〉

誰かに見張られているような感じがし、しかし怖い事は無い

 〈斎場火ぬ神〉

水の流れるような感じがする。

 〈斎場軸紳〉

先生に言われ、虹を見る、洋介の事を思い出す。

 〈知事公社火ぬ神〉

綺麗な弓を想像した、酒のにおいがきつい



    【ナキジンヌブイ】

〈スムチナウタキ〉 

南部とは違い、イメージがあまり湧かない、東に、東に

 〈湧川〉

ゲットウの匂いがとても良い

 〈新里屋〉

守れ、守れ

 〈場所?〉 海の近く、遠くに釣り舟がぽつんと見える、どんな人がいるのか想像する

 〈クボー山母紳〉

大宜味と同じにおいがする山、頂上は見晴らしがきれい、

今帰仁城が、近くに見える、太陽が真上にある

 〈具志堅大井〉

父の生まれたとこ、何も感じないが、さわやかである、香炉の前に、ヤドカリがいる

 〈塩川〉

芭蕉布の歌がかすかに聞こえる、左のほうにも行きたくなる。

 〈部間権現〉

祝詞を読むとき引っかかる、後ろで大勢見ているような気がする、人という字を想像する。

 〈名護城〉 

一本の気の真中からくばの木がはえとても不思議、又来たくなった。

火の神のところは、光で包まれ、とてもきれい。 

 ノートをまとめ、ペンを置いた。

 那覇の平和通り、とても活気があり、商売人が輝いている、横丁の狭い通り、若い頃と同じ沖縄そばの匂い、与座の事務所に入り、チヂアワセをする。

 「そうですか、先骨ねー、聞いてはいましたがそんな事があったんですか、三年後もオンナの人のあそこだけ残っているなんて、女性にとっては屈辱ですよね、他に理由があってもそれだけで、火葬運動が、おきても不思議ではないですよね、古事記で、イザナミが、イザナギに、約束を破られ、恥をかかされ、すごい形相で追いかけっていった、その話しを、おもいだしました。」

 「ええ、私も調べて見てびっくりしました、そして、オンナは〈七罰〉、と言って、出産や、月のもの、それに先骨、等生まれながらに七つのバチをうけている、と昔言われていたらしいんです。」

 「イナグヌ、ナナバチというんですよね、そんな話を聞くと、申し訳無いと言うか、謝りたくなりますねー、現代でも、特に沖縄では、オトコの人が甘えん坊で、オンナの人が、大変ですよねー」

 「私も、この前、塩川(すがー)に行くまでは、神様は不公平だなと思っていたんですけど、その後、もっと深いなにかがあり、〈母が言う、男は大変〉、という言葉もなんとなく、理解できるようになったんです。」

 「わ!今の言葉で、見て!鳥肌が立ちましたよ。怖くなりましたねー」と腕を見せながら与座が言った。

 「父が、漁師で、『いたこ一枚、海の底』で、常に生死がつきまとっていて、そういう世界って、オンナには絶えられず、それが、普通のオトコの人にもあるような気がするんです。先生が塩川で『そうです!』と言ったとたん、大太刀で、頭の真中から、真っ二つに切られ、恐ろしいと言う思いと、無に戻ると言うか、すっきりした感じがし、あ!すみません、私何をいっているのか、わからなくなって」

 「いやすばらしい!〈チヂアワセ〉の極意と言うか、自然に感じていますよ、真剣勝負なんですよ、チヂアワセは、男にはもっと深いなにかがあるという事も、未熟な僕としては、逃げたくなるほど、恐ろしいですね、遼子さんの、一語、一語、でビリビリします、続けてください」

 「あのう、頭が陣痛のようにズキズキするんです。」遼子がこめかみを押さえながら言った。

 「新しい何かが生まれようとしているんです、詰めていきましょう、ちょっとノートて見せてください。塩川の、『大太刀の助けたのむ』というのはどんなかんじ?」と与座がたたみかけていく。

 「待っていると言う言葉が浮かんできます」

 「テイーダ御井(うかー)で、白い鳥が待っていましたよね、スムチナウタキの、清流美、右習え、名護城の、下草のつらさ知れ、と言うのも気になりますねー」

 遼子「…・・」

 「新里屋、はぢちさとうり、薩摩侵攻の折オンナの人が手に刺青しましたよね、」 

 「はぢちは、男の人の優しさだとおもいます、八という文字がでて、オトコ、七がオンナ」

 「八が男!七がオンナ、待っている…」

 「洋介を待っている自分にも関係があり、全部つながっている…」

 「そうです、全部意味があります」

 「オトコの人は、凛々しくて、孤独で、白い鳥もオトコの人です。」と思い詰めた表情をして遼子が言った。

 「シロイトリ、白鷺(しらさぎ)、オトコ、ヤマトタケルだ!!」と与座が、真剣で振り切った様に叫んだ。

 遼子がうつむき、涙をぽろぽろ流し、うなずいた、水辺から〈バサッ〉と白鷺が飛び立ったような、余韻が、空間を包む、遼子は尚も、静かに涙をおとす、《チヂがあいた》瞬間だ。

 「ずっと待っていたんです、大太刀とともに、姫神様が…」

 「そうですね、《ヤマトタケル》、を清流のように、見守っていた、ミヤズ姫ですね、おめでとうございます、チヂが開きました。」そういうと「フウー」と深く息をし、与座が深く椅子に腰掛けた。研ぎ澄まされた、真剣で戦うようなチヂアワセした時間、それを、燐とした表情で、琴を奏で、大太刀を見守る、〈ミヤズ〉の清さが、疲れをいやした。

 国際道り牧志バス停、那覇発名護行き、沖縄バスがきた。

 黒い排気ガス、周囲の喧騒、盛夏の暑さが人々をいらだたせ、遠慮深い琉球の民をも、修羅の様に、空席へと走らせる。クーラーが無い〈ムワーと〉した車内、遼子は、そんなことも感じないかのように、汗ひとつかかず、白いレースの日傘で、バランスをとりながら、つり革につかまり、遠くを見ている。安里(あさと)、泊高橋、通勤帰りの人達でますます、混み合ってきた。 

 宜野湾大山(ぎのわんおおやま)を過ぎ、広大な基地のフェンス越しに、黒い戦闘機の尾翼が目に付く、嘉手納(かでな)基地前バス停で、周囲を見廻すと、だいぶすいてきた。後部座席に深く座り、ガラスに頭をもたげて、ぼんやりしている、読谷、ムーンビーチ、タイガービーチを過ぎたあたりから、かすかにヤンバルの潮風がして来た。それを受けて、体にスイッチがハイッタ。

 《ミヤズ姫様、ようすけに、あいたい、はやく、おねがいします…》遼子は生涯只一度の願いを、その風にたくし、誰にも見せないつらさを、ミヤズに甘える様につぶやいた。

 バスは、名護の七曲(なごのななまがり)をはしる、険しい海岸線が続く、戦前ヤンバルを陸の孤島とし、人々に、〈はるか彼方の地の果て〉をも想像させた、難所中の難所である。その一曲(ひとまがり)、一曲(ひとまがり)がりが、これまでの、我慢、辛さ、憤(いきどう)り、その全てを表わすかの様に続く、琉球の至宝と呼ばれている、落陽が涙で霞む。

 【もうすぐよ、がんばって…・】甘酸っぱい乳の匂い、ふくよかな母の胸に抱かれるような、やわらかい、夕日が、遼子を包む。からだ全体に安堵感が広がった。

 我に帰り、気がつくと、バスは七曲(ななまがり)を抜けていた。未熟さゆえの〈ナナバチ〉が終わった。
   



第五章  青い歯ブラシ

 


オトコは、東へ東へと、ヤマトを離れ戦いつづけ、いくつもの勝どきを上げた。ともに戦い天に上った、血汐を尊び、尾張へと戻る。愛しいオンナのもとに、それもつかの間、よわき民の、窮状に息吹の山に挑む、戻る証しに、尊い大太刀をあずけ、オンナも命をかけて、太刀を守る。

暗い闇が迫る、太刀を探るオトコ、

《はるかなる、おとめのむねにいだかれし、ああわがたちよ、》

むなしくかぜをつかむて

 《はるばると、めぐりておもう、やまとこそ、すぐれしくにと、あおあおと、かきなすやまに、やすらか 

                に、つつまれにおう、やまとこそ、うつくしきくにと》

大空を、ゆっくり、ゆっくり、白鷺が天にかけて行く。

 

 真夏の暑い日差し、それをあおるような乾燥した工事現場で、もくもく働く男がいる、八年前会社が倒産し、沖縄を出た洋介がそこにいた。大阪、名古屋、浜松、三島、と転々と職場を変え、神奈川県相模原市に住んでいた。

 誠実で腕の良い水道工として、周囲に引き止められながらも、東へと職場を変えた。質素な生活、身なり、給料の大半を、借金返済に当る日々が続いていた。隆が海員学校入学の折、知人を通して、祝儀も送っていた、二人をみすてた、洋介に出来る、精一杯のことだった、遼子への募る思いを押し殺し、連絡も一切していない。

 仕事も終わり、一人明かりのついていない、アパートに帰る洋介、安物のカラーボックス、洗面道具、一通りの衣類以外何も無い部屋、そのカラーボックスに、ビニールで包まれた、子供用の〈青い歯ブラシ〉がおいてある、模会いが崩れた原因の、逃げた男を探し出すため、急ぎ身支度をする洋介が、とっさに鞄にいれた、幼いころの隆のものだった。

 大阪で逃げた男を探し当て、借金返済を迫り殴りかかろうとするが、ちょうど、隆くらいの子供が止めに入り、落ちぶれた男をこれ以上責めきれず、ずるずると帰りそびれた男を、慰めるかのように、それはあった。コンコン、ノックするおとがする、ドアを開けた。

 「あんた…・」遼子がちいさくつぶやく。静かな再会である。表情を変えない洋介、目をあわさず、懐かしい洋介の匂いを感じながら、部屋をかたずける遼子、深々と時が流れる、〈青い歯ブラシ〉を見つけた。

 こらえきれず「洋介ー!」と叫び、後ろから抱きつく遼子、拳を力いっぱい、握り締め、天を向き、涙をこらえる洋介、ナギとナミがそこにいた。

 「洋介!もう良いのよ、頑張らなくて、あんただけが、悪いんじゃないから、私も何も知らなくて、助ける事も出来なく、ごめんなさい、模会い仲間の人も、あなたが、〈誠ぬ者(まくとうむん)〉で信用できるから、何千ドルって、掛けていたってよ、それに座元に成るように進めたのも、私達だから、洋介さんに、悪い事をしたとも言っていたよ、もう元金は終わっているのに、利息まであなたが、おくって来るので、昨日、私のとこに来て、返しに来てくれたの、その人からここの住所を聞いて、飛んできたの」と離れ離れの時間を悔しがるように、 洋介の背中をたたきながら、遼子が言った。

 それでも唇をかみ締める洋介に、遼子の言葉がつづく。

 「伊地(いぢ)のお母さんも、一人で頑張って、つらさは見せないけど、お盆とかに行くと、さびしそうよ、ヤンバルに帰ろう洋介!もういいのよ!」

 「伊地、」その言葉を聞いた洋介が、膝を折り両手を畳につけ、嗚咽を漏らす、幼い頃、洋介もまた父親を亡くし、母一人、子一人の生活が続き、母親に掛けた苦労がよみがえり、そうなったのである。

 洋介の背中をさすりながらも、遼子が無意識に沖縄のわらべ歌を口ずさんでいた。

 「イッターアンマー、マーカイガーア、ベーベーヌクサ、カイガ、ベーベーヌ、マサグサヤ~~~~」偶然にも、洋介が幼い頃母にまとわりつき、泣いていると、母が抱き上げ、歌ってくれた、子守唄であった。



 嗚咽が、号泣に変わり、タマシイが癒(いや)されていく。

 翌朝、相模原の柔らかい風を感じ、遼子が、洋介に、朝ご飯を準備し、弁当を作っている。

 「洋介!二、三日泊まって、いっていいでしょう、仕事終わったら、映画でも見に行こうよ、ね!いいでしょう!」遼子が、甘えたように言う。昨晩も、八年の月日を埋めるように、遼子が、隆のこと、食堂のこと、それに、巡礼の事、一人でしゃべり続けていた、洋介は、うなずいたり、微笑んだりするが、何もしゃべっていない。

 その日の夕方、遼子は、一人羽田空港にいた、今だ気持ちの整理がつかない自分、落ち着いたら必ず連絡するからと、洋介に諭され、沖縄へと機上の人となった。

 〈あの!堅物男、明治時代じゃあるまいし、八年ぶりにあっても何も無いし、ブツブツ〉遼子は、独り言を言いながらも、八年前と全然変わっていない洋介に安心し、那覇空港から、ヤンバルへと急いだのだった。

 旧暦七月に入り、旧盆前で、名護にあるスーパーも、お中元が山のように詰まれ、スイカ、ブドウ、さとうきび、お供え物の香りに心が和む、そこで、遼子は、幼馴染の葉子に偶然であい、喫茶店で話し始めた。 

 「そうだったの、洋介さんが青い歯ブラシを…良い話しだねー、遼子良かったねー」

 「ちょっとやめてよ、葉子!、こんなとこで泣くなんて、皆が見てるじゃない。」

 「なんでー!いいさー!、あんたこそいつも気を遣って、ところで、隆ちゃんに話したの?」

 「ええ、あの子小さいながらも、男だと、責任感じてて、母や私を守っているつもりだったのね、洋介、のこと話したら安心したようで、喜んでいた」

 「隆ちゃんなんて呼べないわね、偉いわねー、男だわ!話は変わるけど、りょーこ、あんたの食堂で、ウンケージューシー、作るでしょう、自分で作るのめんどくさいし、私のもおねがいね!」

 「あきれた!もちろん食堂で、作るし配達もしてるけど、それは、男所帯の家や、お年寄りだけの家のためよ、ダメダメ、解らなければ教えるから、心をこめて作るのよ!」

 旧暦七月七日、七夕(たなばた)の日、遼子は洋介の家にいた。母親、夏子が墓掃除の準備をしている。

 「お母さん、私達が行くから、休んでて」

 「そうだよ、おばあちゃん、俺達が行くから、外は三十度超えているよ」

 「隆も遼子さんも、二人ともありがとうねー、でもタナバタにお墓掃除すると気持ち良いからねー」

とそのとき、郵便小包が届いた、夏子が丁重に礼を言い、仏壇に置いた。

 「ああ、お父さんからだ!お母さん見ろよ!おとうさんお盆は、帰ってくるのかなー」

隆が言う、遼子も、夏子も、何も答えづ車へと向かった。

 亀甲墓に着くまでの、車内に、きまづい空気がただよう。隆が幼い頃、四人で山葡萄(やまぶどう)や桑の実を食べたことが、とおい過去のように、三人無言で墓掃除をする。

 旧暦七月十三日、ウンケーの日、食堂では、ウンケージューシーの準備で忙しそうにしている。豚骨、鶏がら、鰹節、昆布で出汁をとる、シンメーナービも暑さを煽(あお)り、厨房にそれらの匂いが充満する。

 遼子もあちこち配達をし、途中伊地による、「お母さん、ジューシー持ってきたから、ここに置くね!」遼子が言った。

 夏子がでて来て「ありがとう、暑いのにおつかれさん、代金いくら?」と言った。

 「お母さん、お金なんていらないわよ!水臭い!」

「そんなに怒らないで、隆ちゃんに、お菓子でも買ってあげて!」と強引に遼子の手に、五千円札をにぎらそうとする、遼子が返し、それが四,五回続くと、遼子が根負けし、

「お母さん!夕方、隆とウンケーに来るから待っててよ!かならずね!」と遼子が言い、残りの配達に、伊地をあとにした。

 車は塩屋赤橋を過ぎ、そこから二キロくらいの、大宜味村津波(つは)に着く、毎年、ジューシーを届ける、産良(さんだー)オジーのとこである。

 五人の子供も全て家を出、遼子が食堂を始めた頃、六十年連れ添った愛妻を無くし、その年のウンケーの日、ちぢみのステテコ姿で、幼い頃のごちそうの味を、舌が催促するかのように、どんぶり一個持ちながら、食堂の前に立っていた。

『おじいちゃん!なんかようですか、』

『ねえさん、ウンケージューシ分けてくれないかねー』

『え!ジューシー!、ごめんなさい、やってないんだけど、いえのひとは?』

『オバーが死んだから、誰も作る人がいないさー』

『こどもたちは?』

 『皆、内地にいて誰も帰ってこないさー、おばーにウンケージューシ食べさせたいのに、どうしようかねー、津波(つは)から来たのに』

 『津波から歩いてきたの!おじいちゃん!わかった!家にあるから、おじいさん、私の車に乗って』と、そのころからの付き合いである。

 これをさかいに、遼子の食堂では、ウンケージューシを作り、配達するようになったのだ。

 『産良(さんだー)ーオジー!!、いるー!ジューシ持ってきたよ』

 二番座にある、仏壇には、グーサンウージ、ぶどう、すいか、なし、りんご、ばなな、みかん、コーグァーシ、などがジューシーを待つ様に、所狭しと並んでいる、とても八十過ぎの老人一人で、供えたとは思えないほどあり、わずかな年金暮らしの中で、年に一度の贅を尽くすかのように、見事であった。



 『ねーさん、いつもありがとうねー、ウンケーにジューシ食べないと、お盆やった気がしないからねー、オバーの作るジューシーも、おいしかったけど、赤はし食堂のジューシーは、出汁が利いて、とっても美味しいねー、』

 『ありがとう、産良オジー、たくさんたべてね!』遼子は、そういいながら、ここを出るといつも、これからも続けていこうと思うのだった。

 夕方、各家の門の前に、迎え火がともされた、伊地の家でも、ウンケーが始まった。夏子を先頭に、仏壇に手を合わせ、先祖を迎える、お盆の時だけの〈特別の線香の香り〉が、供え物とまじりあい、淡々と遠い昔からそれを続けてきた、琉球の素の香りが辺りを包む。  

 その日の夜、「伊地のお母さんたら強情なんだから、『隆ちゃんにお菓子でも買ってねって』、五千円も渡すのよ、返しても返しても…親子そろって同じね!」とトミに言う。

 「エー!!遼子、夏子さんの悪口言うなよー、あんたに何がわかるの!息子が皆に迷惑を掛けて、部落あるく時も気にして、あの人は、どこか出掛ける時も、夜暗いと逃げたと思われるので、必ず六時までにかえって来て、部屋中電気点けるくらい、真面目な人だよ、北部婦人会の時、伊地の人が言ってたよ、私でも茂治がそうしたら、嫁の理恵さんに同じことをしたと思うよ!」と髪の毛が逆立つほどの形相でトミが怒った。

 「おかあさん、りょーこは、ジューシーに五千円払った事をいってるのよ、嫁の私に…・洋介さんの事は関係ないでしょう!」

 「わからんかねー、自分の息子が迷惑掛けているから、いつも済まないと思っているわけさー・・あんたも馬鹿だねー、『いくら』と聞かれたら、そんな気持ちもさっして、『千円です』とか言えばいいでしょう。」

 トミがあきれた表情でさらに言う「洋介さんがいなくなった時も、夏子さんがあなたを助けてくれたでしょう、それにここにも来て、伊地の畑も、家屋敷も全部処分して、あんたには迷惑掛けないからと、玄関で土下座して謝っていたでしょう。」

 「気持ちは、わかるけど…・」遼子が、うつむいていった。

 「リョーコー、夏子さんとは、ユーシーヨーヤー」トミが諭すようにいった。

 

 旧七月十四日、旧盆中日

 遼子は、台所でぜんざいをパックに詰めている。

 「遼子、あんた、ぜんざい伊地にもっていくの?十五日にするとこもあるから、持っていかないほうがいいんじゃない。」

 「いいの!、〈洋介の嫁〉だし、ウヤファーフジに、美味しいぜんざい食べてもらいたいから、絶対持っていく!」

 「あんたが一番強情なんだから、誰に似たんかねー、アキサミヨーナー!」

 夏子の家に着いた。、遼子は、トミの言うことを心配しながら聞いた。

 「お母さん、ぜんざい持ってきたけど、ウサゲテいいのー!」

 「ありがとう、遼子さん、カンズメでも買って、簡単にやろうと思ったのに、助かったさー、ウサゲテ頂戴ありがとう。」夏子が優しく返した。ホッとして、遼子がぜんざいをささげた。

 「いつも、不足ばかりで済みません、洋介の嫁の遼子です。明日は、洋介さんも一緒に、ウークイできますよーに、お願いします。美味しいぜんざい食べてください」

 

 旧七月十五日ウークイの日、食堂も今日は休みで、遼子は重箱に餅を詰めている。

 「お母さん、餅は九個で良いのー」

 「家家で仕来たりも違うから解らんよー、だいたい九個だけどねー」

 「今日は、お兄さんも、理恵さんも来るから大丈夫でしょ、隆と私は、伊地でウークイするから」遼子が言った。

 「あれ!あんた帰ってこないの、三人でウークイするわけ!」と心配そうに言った。

 「ハハハ、お母さん、理恵さん怖いんだー、お母様、正月にでも…・」

 「フリムン!ヤナワラバー、多いほうが先祖も喜ぶでしょう、それに、理恵さんは都会育ちだし、ナイチャーだから…・大和口(やまとくち)も疲れるから…、リョーコー、早く帰っておいでよ。」

 「隆は、一人で伊地に来るって言ったから、まだ起こさないでねー、いってきまーーす!」

 「えーー!!遼子、何時でも言いから帰っておいでよ!必ずだよ!かならず!!」と、裸足のままで、ヒンプンの前まで追っかけてきて、遼子に言った。





 夕方、各家々からは、親族の集いが賑やかにひらかれ、ウークイが始まろうとしている。



 周囲の賑やかさが、遼子たちをさらに言い知れない寂しさに包む。隆がそれをかき消すかのように、ハシャギ、庭で一人で花火を始めた。それがいっそう深みを増した。



そんな遠くないあのころ、隆と洋介が庭で花火をしたころ。

『おとうさーん、僕こわーい、手がヤケドするよー』

『隆、それぐらいで泣いてどうする、男はもっとしっかりしろ!』

『でもこわいよー』

『だめだ、そんな線香花火で怖がってどうする、よしもっとすごいやつ、これをもて、ロケット花火だ!、一人で持ってみろ、落としたら許さんぞ!』

『いやだー、てがあついよー』

パン!バッバーン、ロケット花火を隆が離し、それが家の中に飛び込んだ。

『ぎゃー助けてー、アメリカーが爆弾おとしたー!!』

夏子が腰を抜かし、救急車が来て、部落中大騒ぎになった。

そんなとおくないあのころ

 

 隆が、それを振り返っているかのように、うつむいて花火をしている。

 暗闇から、息を潜め誰かが見ている、隆が白い帽子に気がついた。

 「お母さん、誰か、フクギの木のほうにいるみたいだ。俺みてくるよ!これおねがい」と線香花火の燃え滓が入った、バケツを遼子に渡した。遼子と夏子が顔を見合わせた。夏子が期待を振り切る様に、ウークイの準備に仏壇の前にいった。

 「お父さん!!お父さんだ!!お母さん、おばあちゃん、お父さん来たよ、やったー!」隆が大声で叫びながらヒンプンの前に来た。



 それを聞くや否や、夏子が二番座からはしって来て「なにしにきた!かえれ!!」と叫び、顔を思いっきり、びんたした。開襟シャツのポケットに入っていた、青い歯ブラシがとんだ。

 中学から使っている、赤いラインが二本はいったスポーツバックを持った洋介だった。

 夏子がヒンプンの前にしゃがみこみ、以前買い与えた当時流行りの、スポーツバックを叩きながら、号泣している。洋介が中学二年の頃、部落中の男の子がもっていたバック、それを欲しいとおくびにも出さず、ランドセルを買えず、小学校入学の時からある肩掛け鞄を使っていた。そんな洋介をみかねて、名護で品切れとわかり、那覇へ往復八時間かけて買いに行った。そんな事も夏子の脳裏をよぎっていた。

 遼子が、青い歯ブラシを拾い、夏子を抱きかかえ、二番座につれてくる。

 洋介はなおもヒンプンの前に立ち尽くしている、まるでそれが、逃げた男を頑なに拒む様に、洋介の前に立ちはだかっている。隆にうながされ仏壇の前に洋介が来た。



 夏子がとりなおし、線香十二本三本に火を点け、洋介に渡す、しなやかに〈カミテ〉、仏壇に奉げる。

 洋介、合掌、背中を極限に曲げながら、先祖に詫びる。

 夏子が洋介を抱きかかえ、歌った。

〔いったーあんまー、まーかいがー、べーべーぬくさかいが、

べーべーぬまさぐさや、わったーあっぴーまかいがー、

うみーぬいうといがー~~~~〕




 隆も洋介に抱きつき泣いた。



 遼子が、三人を見守り、涙が、両手で握り締めている〈青い歯ブラシ〉をぬらす、古い勉強机の上にスポーツバックが、居場所を見つけたように置かれている。八年のみそぎが終わった。

 ウークイも無事終わり、台所で遼子が、洗物をする、二番座では、洋介と隆が、腕相撲をはじめ、傍らで、夏子が、団扇を二人に仰ぎながら、優しく微笑んでいる。

 久しぶりに親子三人、川の字に寝た。

 遼子が夢を見る

「きよらかなみず、七色のはし、綺麗なオンナの人が手を引き、

黄金の大太刀をもったオトコがわたる…・」

 はっとして起き、時計を見る、九時だ。

 すばやく着替えて、台所に行く遼子、夏子が朝ご飯の準備を終えている、

「すみませんお母さん、寝過ごしちゃって、」

「良いのよ、遼ちゃん、まだ寝てればいいのによー、起こしてしまったねー」

 失われた時間が、徐々に戻りつつある。



第六章  雅

 

「そんなわけで、先生のお蔭です、有難うございました。」遼子が、これまでのことを話した。

 「そんな、礼なんて、本当に良かった、ご主人さんが帰ってきましたか、幼い頃のメロデイーに、クリーニングされて…ミヤズ姫様のお力でしょう。」与座が目頭を赤くしながら言った。

 「そうなんです、わたしもびっくりしました、偶然にも、お母さんと同じ、子守唄を歌うなんて。」

 「最初の御恩上げの時も、確かお母さんを抱き、ヨシヨシあやすような、ようだったと言ってましたね」

 「ええ、あの時も、そう言えば、どっちが、親なのか、解らないくらいに、抱きかかえていました。」

 「ミヤズ姫様、そんな力があるんですよ、」

 「ほんとに感謝しています、私もバスの中で心地よく、赤ちゃんの時、すやすや眠ったような、安堵感に包まれ、洗われました。」

 「そうですね、あと二柱の神も悟り、これから巡礼してわかると思いますが」

 「はい解りました、先生、ところで、以前の夢の話しと、関連すると思うんですけど、また夢を見たんです、今度は、水も清く橋もちゃんと掛かっていて、オンナの人が大太刀を持った男の人の手を引いて、橋を渡って行くんです、」

与座「………」

 「前の夢も、先生に自分で解くようにと、言われていたので、何と無く、解ってきました。黒い水は、この世の欲というか,汚れ、男の人は、洋介のあの時の状態で、…」

与座「だいぶ進歩してきましたね、橋はどういう意味」

遼子「……」

 「虹の橋の上のオンナ」

 「オンナ…、壊れた橋と言うのはあの時の、私だったんですね」

 「はい、良く出来ました、ピンポーン!」

 「温泉旅行当たりー」

 「おう!遼子さんも、変わってきましたね、温泉旅行なんて、歳がばれますよ、そんな小さなもんじゃないですよ、JALパック、ハワイ、家族五人様ご招待、まだ小さいかな」

 「まだまだ若いですよ!錆びた刀はどうなんでしょう」

 「ギク!正直言って、解りません。この前のチヂアワセで、遼子さんが、お父さんの話しをしたでしょう、〈イタコ、イチマイ、ウミノソコ〉そんな言葉が繰り返しでて来ていますが、う!又怖くなりましたねー、責任とか、そんな生易しいもんじゃないですね、刀の件は、後にしましょう、うーこわ!」

 「先生も怖いことあるんですか、フフフ」

 「ヘンナ笑いかたやめてくださいよー、それより、橋の件ですけど、それを、言葉に直して、グイスにいれ、これからはそのグイスで、御恩上げしましょう」

 「ぐ・い・す?」遼子が首を傾げた。

 「あれ!教えていませんか?〈祝詞〉のことです。大宜味に行った後でいいですよ」

 「祝詞のことですか、はいわかりました、いつごろが良いでしょうか?」

 「お盆も終わったばかりですし、また連絡ください」

 那覇を後にし、〈朽ちた木橋〉を思い出しながら、改めて、洋介に詫びる遼子だった、

 旧暦八月、テレビでは、来年の海洋博のことが、流れている、すでに倒産の話しもちらほら出始め、徐々に社会問題化し始めていた。遼子は、部屋で、線香を作りながらも、『あのままいけば、もっと大きな負債を抱え、立ち直れなかったかもしれない』と思っていた。

 旧暦八月十五日、十五夜である、仏壇には、フチャギ餅が供えられ、大宜味の月は、床の間の古酒の、まろやかさを増すかの様に、輝きをましていた。洋介も名護のアパートから、喜如嘉にきて、遼子達とそれを楽しんでいる。

 「あんた、なんか籍はどうするの」

 「うん、もう少し落ち着いてからね・・」

 「でも遼子も良かったね!あ・い・す・る、あ・な・た・が来て。」トミが流し目で言った。

 「お母さん!おこるよ!洋介も飲みにくいでしょう」と、あわもりをグラスに注ぎながら言った。

 「洋介さん!ここも自分の家だとおもって、足も崩しなさいよー、さっきから、ひざまんちゃーしてねー」

  洋介はそう言われながらも、正座し、照れくさそうに、赤顔で笑い、グラスを口にはこんでいる。

 穏やかな十五夜である。 

 「洋介さんも帰ってきた事だし、そろそろ良いんじゃない?」トミが言った。

 「何が良いの、おかあさん」

 「隆も、一人では、かわいそうよー、ねー、洋・介さん…・」又トミが流し目をした。

 「ワーー!キャーー」遼子がそれをかき消すかのように叫んだ!!

 〈がチャーン〉洋介が、顔を溶鉱炉の様に真っ赤にし、グラスを落とした。

 「お母さん!!怒るよ!!さっきから、洋介ばかりいじめて!」畳に飛び散った、氷をかたずけながら、隣に聞こえるくらいに大声で、怒鳴った。 

 「アキサミヨー!アンシマギアビーサンケー、タマシーヌギイサ!!マブヤー、マブヤー」トミが胸に手を当てながら方言で言い「あんたが、りえさんのことでいじめるから…・」こごえでいった。

 塩屋のウンジャミも終わった、旧八月後半、喜如嘉七滝、いびの前に、一本のクバが勇壮に立ち、繊細な滝と共に、残暑のいろを、藍で染めるかのような、深淵(しんえん)な酸素を送り出している。




 遼子が、御恩上げを始めた。

「滝の下のほうに来るように、いわれたのですけど」

「どうぞ、自分で判断、して下さい。」




 遼子が、神器(びんしー)を頭上に掲げ、滝壷のほうに下りていく。



 澄み切ったカシワデの後、グイスが聞こえる。



〈とてもきれいで、かんしゃしています〉

 

 {あなたも、ミヤビできれいよ}



          

カシワデが三つ。



 神器をしまい。車に戻り。七滝を抜ける。

 「有難うございました、」遼子がくちびをきった。

 「おつかれさん、」

 「みやびできれいよと…」

 「はい解りました、橋を、ミヤビで顕わしましょう、なないろ、あか・き・あお・あい・みどり・だいだい・すみれ」

 「先生何時も有難うございます、娘が大変お世話に成りまして、ごゆっくりして下さい」トミがお茶をいれ言った。「こちらこそ、お母さんの話しを聞いて、いつも勉強になります。」与座が答えた。

 遼子は、七滝の余韻をまだ味わっているように、きちんと正座し、外をみている。それを打ち消すかの様に、季節はずれの蝉の音が大きく、鳴り響いてきた。遼子が、日常に戻り、話し始めた。

 「とても謙遜で、清らかな、響きでした。」 

 「そうですか、『みやび』、ね、」

 「虹の橋で見た、綺麗なオンナの人に言う様に、いえ・・私のことではないですけど」

 「食堂を始める、きっかっけになった、虹の橋に立つ、遼子さん!!神様に言われたんですから、自身をもって、ハハハハ!」と与座が緊張をほぐすかのように、大きく笑った。

 「いやだ!先生、冷やかさないでください。でも、〈みやび〉ってなんと無く解るんですが、日頃どういう事に心がければ良いんですか?」

 「別に、意識しなくてもいいですよ、沖縄の行事が教えてくれますから、楽しくやればいいんです。」

 旧暦九月、新暦十月にはいり、残暑も和らぎ、ヤンバルでは、もうすぐミカンがりの季節である。赤橋の食堂も、ビーチ客が減り始め、やっと落ち着きを取り戻していた。昼下がりの習慣が始まった。

 豊子「遼子さん、巡礼どう!」

 遼子「この間、七滝に行ってきたの、とてもきれいだった」

 豊子「ナナタキって、あの、小学校のほうの?」

 遼子「うん」

 豊子「あそこは年がら年中いっているじゃない、あらためて行く必要があるの?」

 小百合「小学校のころ、掃除したり、よく行ったよねー」

 悦子「遠足で山に行く時なんか、七滝拝んでから行ったのよ」

 豊子「遼子さんも同じじゃない、他の、伊江島とか、伊平屋とか、いろいろあるんじゃない?」

 遼子「喜如嘉で育って、オンナで、良かったなー」

 豊子「遼子さん、ちょっと早く話してよ!」

 小百合「遼子さん、熱があるんじゃない、恋人でもできたの!」

 悦子「まさか!私はわかるような気がするな」

 豊子「悦子さん、また!『ユタ』ムニーシテ!」

 悦子「そうじゃなくて、私も七滝好きなの、それだけよ」

 遼子「うまく言えないけど、『ミヤビ』に優しくなろうって、思うの」

 豊子「ミヤビ!アキサミヨー!天皇陛下じゃあるまいし、それとも、タバコでそういうのがあったよね!」

 小百合「平安時代の、お姫様がでてきそうね、漫画でよんだことあるわ、いいよねー、光源氏が出てきて、恋文をしたため、万葉集かなんか読んで…」

 豊子「なに!マンジュウ、とヨウカン!ここにあるテンプラーのほうが、美味しいさー」

 小百合「マンヨウシュウ!豊子さん、お下品でございますことよ、ホホホホ」

 豊子「オゲヒン!もうやめてよ、毛が立つでしょ!」

 悦子「平安時代と言へば、十二単衣(ひとえ)って綺麗よねー、きれいな色を重ね、私でも、ああいうの着れば、上品に成れるわよ」

 遼子「悦子さん、いいこと言うわね、そうよ、心に十二単衣を着ていつも、自然な美しさを保っていこうって、そういう『雅』よ」

 小百合「遼子さん、もっと、具体的に教えてくれない?」

 遼子「先生が言うには、〈沖縄行事〉を〈楽しく〉自然にやってれば、みやびに成れるって言うの」

 豊子「行事って、お盆とか、シーミーとか?」

 小百合「シーミーっていうと、女たちが忙しく料理を準備し、お父さんや叔父さんたちが、木を切ったり、草を刈ったり、座る場所も、右と左でわかれて、なんで?と思った小さい頃を思い出すなー」

 悦子「でも楽しかったよねー、福岡で働いた時、お盆の時期になると、ジューシ食べたくなって、帰りたいと思ったな、そういえば」

 豊子「……・・」

 小百合「どうしたの豊子さん!」

 豊子「えっちゃんが、へんな話しするからよー、涙が出るでしょ」

 悦子「私悪い事言った・・」

 豊子「ううん・・中学卒業して、京都でバスガイドになるとき、お母ーが那覇の港で、『お金は持たせられないけど、さびしい時にはいつでも電話しなさい』と言われ、大きな弁当箱を渡されたの、船の中でさびしくて、さびしくて、弁当を開けたら、ジューシーがたくさんはいっていて、デッキの上から、遠くに見える那覇の明かりを見て、一人で泣きながら一生懸命食べた事を思い出したの…・あ!ごめんね、しんみりさせて」

 小百合「うわーん!私まで泣きたくなった、良い話ねー」

 遼子「そうよ、ウチナーンチュで良かったなー、ジューシー!万歳!」

 悦子「依然遼子さんが道端であった、おばあさんも雅ね!」 

 遼子「そう!沖縄のおばー達は、とても〈みやび〉よ!」

    


最終章  潔 

 


「出来た!」ふーと息をはき、与座がペンを置いた、七本線香を追加した、新しいグイス、のことである。

 【奉げました、九十九本の線香の意味は、三本は、日、月、星、一二本は神徳、七本は、(赤、黄、青、藍、緑、橙、菫)として、百瀬に渡る、ミヤビぬ線香、~~】

 那覇平和通り近くの事務所の窓からは、歳末大売出しの赤い旗が、通りを染めるかのように見え、国際道り、開南通りからも、買いもの客が洪水の様に押寄せ、セーターや、ブレザーの、鮮やかな色も、まるでそこが七色の川の様な錯覚を起こさせた。

 ドルから円にかわった値札も、遠い昔の様に、人々は、千円で一枚もらえる、福引券をにぎり、抽選所の前は、黒山の人だかりである、〈ドンドンドン!大当たりー、三等賞、カラーテレビ!〉歓声があがる、人々のお目当ては、当時出始めの、一等賞、家庭用ビデオである。

 「すみませーん、イナミネです、先生いらしゃいますかー」

 「………・」与座が聞きなれない名前に戸惑っている。

 「遼子さん!稲嶺なんて…・」と与座が言葉を飲み込む、直立不動で、深深とお辞儀をする、男が立っていたからだ。「あ!こんにちは・・」与座が言った。

 「主人の…・、すみません私ったら、驚かせてしまったみたいで、稲嶺洋介です!」と遼子が女子高生のような目の輝きで言った。

 糊のしっかり利いた白いYシャツを、ネクタイ無しで、喉ぼとけの近くのボタンまでしっかり閉め、ヘリンボン柄のブレザーを着た、洋介がそこにいた。

 遼子は、活発な妹のような、手招きで、洋介をソファーに座らせた。

 「先生、うちのひと、くじ運が良いんです、『山陰玉造(さんいんたまつくり)温泉大当たりー、二名様』ですって!」とネクタイをしてない、洋介のそれを直すそぶりをしながら言った。洋介は頭を掻きながら、照れ笑いをしている。

 与座「それは良かった、あの辺は見所もおおいですし、出雲大社なんかもあるんで、いいですねー」

 遼子「ほんとですか!よかった!当たった時はびっくりしたんですけど、この人ったら、抽選所の舞台に上がって来てくださいと言うと、逃げようとしたんですよ、慌てて私がとりに行きましたよ」

 与座「ハハハハ!遼子さんらしいですね!」

 遼子「あ!先生、お忙しかったんじゃないですか、連絡もせず、突然来てすみません」

 与座「いえいえ、ちょうどよかった、今新しいグイスが出来あがったとこでした、これです。」

 遼子「百瀬に渡る、ミヤビの線香(こうぶん)…すばらしいですね!大変だったでしょう先生」

 与座「いえ、大体出来ていたんで、ちょうど、食堂で遼子さんと会った時くらいから考えていたんです」

 遼子「有難うございます、大切に使わせていただきます、次の巡礼なんですけど…」

 与座「どうか、したんですか?」

 遼子「主人が、御恩(ぐうん)を上げたいって、いうもんですから、よろしいでしょうか?」

 与座「もちろんですよ!伊地ねー」

 遼子「あし宮と呼ぶ、拝所があるんです。場所は、洋介が全部知っていますから」

 与座「いろはの『伊』といい、あし宮ですか?あいうえおの『あ』といい、はじめとか、そんなイメージが湧いてきますね、新しい夢を見たのも、伊地に泊まった時ですよね、怖い、刀の件が解決できるような気がします。いたこ一枚海のそこ、男が大変、『雅』と対をなす『言葉』そんなことも…すべて」

 洋介が真剣な目をして聞いていた。

 旧暦十二月、この頃冷え込みが厳しく、ヤンバルの山々では、旧暦八日の〈ムーチー〉を包むのに使う、〈ゲットウ〉の葉を刈る、風景が見られる。鬼も優しくなるほどの、とても良い香りがする葉である。遼子の食堂では、ムーチー寒さ(びーさ)も苦にせず、皆でゲットウの葉を洗いながら、その準備で忙しくしていた。




 小百合「この前の遼子さんの話しを聞いて、行事が来るたんびに、〈ミヤビなオンナ〉に成れる様で、楽しいね、ルンルン、これまでは、『女ばっかり苦労してなぜ!』と、嫌々やっていたのにね、同窓会で話しをする時も、『長男の嫁には成りたくないとか、ヒヌカンのお水変えるのが大変』とか愚痴をこぼしていたのに今考えると恥ずかしいな。」

 豊子「へー!小百合も変わったねー、そう言えばあんた髪どうしたの、あんなに真っ赤に染めていたのに、

黒くなって、マニュキュアとかもしてないし、そうか、旦那が見てくれないので止めたのね!」

 小百合「ちがうよー、この前の話しの後、家で鏡を見たらとても下品に感じて、只それだけよ」

 悦子「でも今のほうがとてもかわいいよー、優しくなった感じがして」

 小百合「有難う悦子さん!旦那も今がとてもかわいいってさー、やさしくなったの!キャー」

 豊子「じゃー私も黒くしたら、かまってもらえるかなー、でも結婚して二十年にもなるし、うちの人は釣りとか、ゴルフばっかりやっているから、かわらんかもねー、やーめた。」

 悦子「外見はどうでも良いけど、豊子さんが変われば、旦那さんも少しは変わるんじゃない?」

 豊子「また!えっちゃんが、〈ユタムニー〉して!」

 遼子「悦子さんの言っている事は、いいことよ豊子さん、那覇の先生が言うには、『女の人がどういう橋を掛けるかによって、男が決まる』っていうの」

 豊子「遼子さん、どういう意味?」

 遼子「それはね、タナバタの織姫と彦星が要るでしょ、ああ言う風に、川を挟んで両岸に男と女がたくさんいるんですって、女が橋を掛けて、それに見合う男の人だけが渡ってくるの」




 小百合「わー!とてもロマンチックねー、乙女心をくすぐるワ!」

 豊子「橋掛ける?おんなが?男が作るのが当たり前じゃない、力もあるし」

 小百合「豊子さん解ってないなー、その橋は女の気持ちとか、心構えとかを言ってるのよ!」

 遼子「すごい!、小百合ちゃん解っているじゃない、そのとうりよ、〈見かけは、宝石など散りばめて綺麗だけどシロアリで腐った橋〉、〈不安定な釣り橋〉、〈今にも壊れそうな石橋〉、〈汚れた汚いプラスチックの橋〉、〈コンクリートで出来た冷たい橋〉、他にもいろいろあるわ、私が以前掛けていた橋は、〈朽ちた木橋〉だったけど」

 悦子「その橋に見合った男の人が渡ってきて、結婚したりするんだー、〈シロアリで腐りそうな橋〉を渡ってくる男、考えただけでぞっとするわねー、あーこわーい」

 遼子「そうね、自分でそんな橋を掛けといて、愚痴ばかりいっている女、それを選んで渡ってきて当り散らす男、私達も含めて今は皆そうなのよ」

 豊子「そうね、私が今掛けている橋は…コンクリートで出来たとても〈冷たいはし〉・・」

 悦子「私は・・もっとすごいワハハハハ、鋼鉄でがっしり作った橋、ハハハハハ」

 小百合「おもしろいわねー、私は・・ルンルンだから新しい白木の橋で、欄干の上に〈スミレ〉かなんかかわいく植えて・・ルンルン」

 豊子「スミソ!なんかくさそうな橋だねーハハッハハハ!」

 小百合「す・み・れ・よ!なに聞いてるの、デリカシーがないねー」

 遼子「小百合ちゃん、良い感してきたわねー、今度の巡礼から〈ミヤビ〉と言う線香を、追加するんだけどそれを、〈あか〉、〈き〉、〈あお〉、〈あい〉、〈みどり〉、〈だいだい〉、〈すみれ〉の七色で顕わして綺麗な虹色の橋を掛けるの、ナナタキの姫神様みたいに。」

 小百合「綺麗だねー、澄んだ川に、虹の橋がずらりと並んでいるなんて、想像しただけで、うっとりしちゃうね!」

 悦子「ほんとだねー、きれいねー」

 豊子「…・・そんな橋渡ってくる男の人って、どんな感じかねー」

 遼子「豊子さんがミヤビの橋を掛ければ、ご主人も変わってくるわよ!」

 悦子「私も新婚の頃は、綺麗な橋だったのに…」

 遼子「始めは皆そうよね、綺麗な橋でも、〈洪水や〉、〈日でり〉、〈雨風で〉、傷んでくるのよ、男と女が、いつも自分を振り返る様に、見守り、修理しなくちゃ・・たとえば〈女は簡単〉よ、ヒヌカンとかお仏壇に一日、十五日、酒とか、変えるでしょう、それだけで、いつも綺麗な橋に保てるのよ」

 悦子「そうだね、毎日水を替えて、線香上げるのも、いつも橋を点検しているようなものね!」

 小百合「季節事の行事だけじゃないんだ!簡単じゃない!そういうこと、遼子さん早く言ってくれなくちゃ、早くヒヌカンとかにもやりたくなってきた、よし!頑張るぞー!」

 悦子「以前〈女は大変って〉、皆で話したけど、そうじゃないわね!」

 豊子「そうだね、えっちゃん、ヒヌカンも行事ごとも楽しくやって、ミヤビな虹色の橋を掛けるぞ!さー!皆で心を込めて、カーサーの葉洗うのよ!」

 遼子「はい、楽しく頑張りましょう!」

 ドドドドド、そとから音がして来た。

 「ねーさん!カーサーたくさんもってきたよ!」津波の産良おじーが、トラクターに山積みの葉っぱを持ってきて言った。「ありがとう!産良おじー」全員で返事をした、神子(かみんぐぁ)達の明るい声が響いた。  

 沖縄県国頭村伊地(くにがみそんいぢ)、戦前は、藍の栽培が盛んで、その殆どが、遼子の父の出身地、本部町から、開拓にきた人達が切り開いた開根地である。男が、山深い原野に、一人で小屋を立て、無から切り開き、現在もその男達の名前が残る、畑が存在する。そこで村の娘と世帯をもち、そんな風に開けた土地であった。

 『オンナがミヤビの橋を掛け、そこで待つ、オトコが、大太刀をもち渡る。』

 ムーチー寒さ(びーさ)の北風がビュービュー吹いてきた。

 洋介が、宮の前、で御恩を上げる、それが終わり、幼い頃の日常の様に、宮のとなりの小道を行く、二人も後に続く、古井戸があり、神事が淡々と進んで行く、そこからさらに森にはいる、あたりは、クバや、へごの原生林が生い茂っている、年輪の無いこれらの木々が、まるでなにかを悟ったように、天を突き刺す。

 それらをも尚、控えめにするような、空間にたどり着く、オトコが柏手を三つ、二人が息を飲んだ。

 《タン!タン!タン!》もりに響き、なにかが臨戦体制を取ったように、クバがゆれる。

 背中が、一段と、直に成る、祝詞が響く、クバもいっそうゆれる、《パンパンパン》疾風の様にカシワデが三つ、その瞬間!《バサー!》とクバの鋭利な葉が、黄金の大太刀の様に、振りかざす、



   



  

   《わおおおおおおお!!!》



森に雄たけびが響いた、〈ばさばさーー!!〉とクバが落ちた!



「イサギだ!!」



     白鷺があまかけてとんでいく

      

              一人のタケルが生まれた

 

  





 静寂の中に、オンナが横たわる、遠くに、呼ぶ声がする、大太刀を抜く、潔い、男の声で…・・

 

  「遼子!、遼子!」洋介が呼ぶ、うつろいながらも、ミヤビの橋に二人が立つ。

  「先生有難うございました、これからもよろしくお願いします」、と遼子を抱きかかえ、深深と礼を言う、       

      

 月桃の香りが心地よい、「カーサームーチー…・・」 




傍らで洋介が、新聞を読んでいる、「遼子気がついたか!」「洋介・・わたし…」「まだ寝てて言いよ」

 「本当に先生二人がお世話になります。こんな田舎まで来ていただいて、どうぞ、これも召し上がってください」夏子が一番座で、与座にゲットウのお餅をだしながら言った。

 与座「そうか、今日は、ムーチーですか!、どうも有難うございます。」

 夏子「洋介が帰ってきたので、八年ぶりに作ったんですけど、お口にあいますか、どうか」

 与座「とても美味しいですよ、お母さん、黒砂糖と、ゲットウの香りがとても良いですね」

 そこへ、洋介と遼子が、やってきた。

 遼子「先生どうもすみません、ご迷惑おかけしました。」

 与座「洋介さんが、しっかり抱きかかえ、遼子さん、本当は気づいていたんじゃないの?」

 遼子「いやだ先生!ただ・・、とても頼もしい腕に抱かれ・・、出会った頃のような・・」

 与座「そいえば、若い頃洋介さんに助けられ、抱きかかえられた、と言っていましたよね、二度目かー」

 遼子「出会った時は、ちょぴりきずいていましたフフフ、でも男の人は大変です」

 与座「ほんとですね、私も圧倒されました、引っかかって、いた物が全て、吹き飛んだような、《潔》と言う言葉を口にした時、《オトコは大変》ということが真に理解できました、これで新しいグイスもできそうです、洋介さん、有難うございました。」

 洋介「とんでもない先生、私はなにも、無が夢中で、一心不乱にやっただけです。」

 与座「それが一番です。」

 遼子「オンナは、誰でも無意識の内に、《潔い男》を求めているんですね。」

 与座「そうです、全ての女性は、生まれながらに、潔いオトコの定義と言うか、法則みたいなものを、知っているんです。男は知らずに生まれ、それを探し求める旅に出る。それを会得したオトコだけが百に到り、ヤマトタケルの様に、白鷺として、天かけて、神上がるんです。〈俗に言う供養いらず〉になるんです、遼子さんのお父さんもそうです。オンナは、始めから神聖なので、その必要はありませんが。」

 洋介「私は、詳しくは知らないんですが、隆の《青い歯ブラシ》を見た時、正直言って、債権者のためでは無く、隆のために、一生懸命働いて、全ての借金を返そうと決意したんです。息子のために死んででも頑張る、と誓ったんです。」

 遼子「……・・」

 与座「誠です。遼子さんが、以前チヂウリのこと聞いていましたよね、それが今の答えです、もし仮に洋介さんが、潔くなかったら、隆君にチヂウリしていたでしょう、隆君で潔しなければ、次のオトコの子に、それで、出来なければ、その次、その次と、オトコの子に、永遠に続きます。これが《チヂウリ》です。世間で言われているような、生易しい物ではありません!!。」

 遼子「怖い!」

 与座「ある意味では、とても恐ろしく、誠の真理です。それをヤマトタケルは、教えているんです。東から戦いで戻ったばかりだというのに、困っている民衆のために、ミヤズ姫に、神剣である、《クサナギの剣》を預け、素手で、伊吹き山にでかけた、それは《生身の人間》に戻ったということです。そして、天かける、白鷺となって、神あがる。」

 洋介「私も、大阪から、名古屋、神奈川と、東に行きました。」 

 与座「そうです、青い歯ブラシの青も東を表します。そして、沖縄に戻り、潔した。」

 遼子「先生、洋介はヤマトタケルの尊に関係があるんですか?」

 与座「ええ、洋介さんと言うより、男で生まれたら、全て関係あるでしょう。」

 洋介「ヤマトタケルを超えるというか、理解しないと行けないということですね。」

 与座「そうです、タケルがイブキヤマで傷つき、ミヤズや、民のために、即ち、一族のために

足を引き摺りながらも、帰ろうとして、最後は、足が三重に曲がる位に、悩み、苦しんだことを…」

 遼子「そのあと。白鷺となって、ミヤズ姫様や、民衆が、どこまでも追いかけて行きました。」

 洋介「先生、クバの木はどう解釈したらよろしいんでしょうか、?」

 与座「クバは、南方系の植物で、オトコを顕わしています、チヂウリしないように、年輪が無く、途中で枝分かれすること無く、上へ上へと伸びて行き、一代、一代で、潔く落ちて、その後がたくましい幹になっていく、伊地のウタキにあった様に、百を悟る事を教えていると思います、それにヘゴとかも、そうですが、先ほど洋介さんの頭に落ちてきた葉の様に、鋭いですよね、剣の様に」

 遼子「ほんとだ、いつも見てるから気がつかないんですけど、新しい葉が伸びてくると、古い葉が、下に落ちています。でもあんなに大きなクバの葉が、洋介めがけて落ちてきた時は、見ていられなくて、気を失ってしまいました。」

 洋介「ウタキに近づくなり、すごい迫力で、私も気づいていましたが、どうなってもいいと決心したんです。その時、内なる声がとても大きく聞こえて来て、力が漲ってきたんです。」

 遼子「え!〈内なる声〉?洋介大声で叫んだでしょう?とても大きく聞こえたワ!」

 与座「あれは、洋介さんの迫力に森が感応したんですよ、でもすごく大きく聞こえました。」

 遼子「うそー!オトコはすごい!大変だワ!」

 洋介「先生!それともう一つ聞いて良いですか?」

 与座「洋介さん、チヂアワセのコツわかってきましたね、どうぞ」

 洋介「仏壇の継承問題について聞きたいんですけど、女性が継いでも良いとか、土地問題とか、裁判にまで発展する時もあったり、先生の話しと、自分の体験で、女の人が継ぐには、かわいそうな気がするんです。」

 与座「かわいそう?どういう意味ですか」

 洋介「先生がおっしゃたように、チヂウリは男だけですよね、私もそう思います、女の人が継ぐといつも〈供養ばかりを要求され〉、潔することができず、意味の無いウガンを繰り返すだけに成ると思うんです、チヂウリを継ぐべき男が、クバの木の様に、潔く継いで、〈供養いらずにならないと〉、すばらしい沖縄の行事が暗くなっていくと思うんです。」

 遼子「洋介すごい…」

 与座「何も言う事は、ありません。潔い男だけが言える、正にそのとうりです。僕の考えも同じです、男が筋を正して、継承すべきです。昔はそれを解って継承していました。仮にチヂウリがおきても、殆ど潔い男でしたので、一代で解決したものです、それが頻繁に起きる事になったのは、戦後ですよ、ましてや相続問題で裁判まで起きるなんて、論外だと思います。もちろん時代も変わりますから、必ずしも長男が継がないと行けないと言うものでも無く、一族のなかで、潔く継げる男が継いでも良いでしょう、太古の王位継承などは全てそうです」

 遼子「先生!ミヤビなオンナは、行事ごとを〈楽しくすれば〉自然に成れる、とおっしゃいましたが、潔い男って、これまでの事で、なんととなく解るんですけど言葉に出ないんですけど・・」

 与座「それは、神の領域ですからねー、あまり詮索しないほうがいいでしょう、あへていへば、武士道や、人侠道とか、そんな問題じゃないと思いますね、洋介さん、どうですか?」

 洋介「…、うまく言えないんですけど、遼子を抱きかかえ家に変える途中、母や、遼子や、トミお母さんの顔が浮んできて、愛(いと)しく思えるようになったんです、愛するのは簡単だけど、愛(いと)しく思うのは、難しいなって。」

 与座「うわー!毛がたちましたよ、すごい!さきほどの、『女の人が継ぐのがかわいそう』と言う、洋介さんの言葉が真に理解できました。神に限りなく近いレベルで、勇ましいとか、猛々しいとか、下手な男気など私の考えていたことも、吹き飛んでしまいました、実は先ほどヤマトタケルの話しをしながらも、未熟な私は、『なぜイブキヤマで傷ついた時、自ら決し、神上がらなかったんだろう、惨めに足を引き摺りながら、大和に帰ろうとしたのか』疑問に思っていました、全て解けました。あらためて礼をいいます。」

 遼子「…・潔いオトコタチの中にいて、幸せです。」

 与座「イトシク思う…・」

 部屋の中に、先祖の神々が見守るような、懐かしい香りが漂っていた。 

 洋介「男は息子を、潔良い男に育てる」

 遼子「女は、年輪のように、母から娘へ、姑から嫁へ、行事ごとを教え、ミヤビな女を伝えていく。」

 与座「大当たりー!特等賞、世界一周の旅!!ハハハハ、でもオンナのチヂウリは、もっと怖い」

 遼子「え!先生怖いこといわないでください。」

 与座「冗談ですよ!ハハハハハ!」

 遼子「先生私もちょっと、いいですか」

 遼子「オバー達が仏壇に手を合わす時、『あーとーとー、うーとーとー』と言うのは、太陽と、月の神様と言う意味じゃないですか、昔は、ほとんど神上っていたので、そう言ったと思います。」

 与座「太陽は?月は、月のも…」

 遼子「わかった!アートートは、男の神上がった先祖、ウートートーは、女の神上がった先祖」

 与座「はい、よく出来ました。」

 「もう話しはこれ位にして、食事でもして下さい」夏子が、墨汁を持ってきていった。

 与座「オ!いか墨のお汁ですか!さっきから良い匂いがするなと思っていたんです。百に留まる事無く、零から始めなさいということですね、喜んでいただきます。」

 夏子「洋介の、父親がとても好きでした。なぜかとても、作りたくなって」

 与座「先祖の皆様が、白鷺に成り、天かけて、神上ったと言う事ですよ」

 夏子が、二番座にある仏壇に、墨汁を奉げた。ムーチービーサーの冷たい北風も、洋介の家だけは、さわやかなウリズンの季節の、柔らかい風にかんじられた。

 旧暦三月、お水取り、沖縄県北部辺戸の大井に三人はいた。




 「洋介―、ここよー!」

 「遼子さん、旦那さんこきつかったらだめだよ、ハハハ」

 「だって、先生、洋介ったら、新しい祝詞、車に忘れてきたんだもの!」

 「先生どうもすみません、お待たせしました」

 「気絶した遼子さんを、介抱したり、洋介さんも大変ですねー」

 「あら!先生、オンナも大変よ、ミヤビの橋を掛けなきゃ!」

 お水取りが始まる、「みて!すごい!かみさまがいっぱいよ!」

 木漏れ日が雨に変わった、見上げると白光の舞のようだ、無に点在するそれに包まれ神事をこなす、至福の瞬間である。

  《グイス》

 【奉げました、百本の線香の意味は、三本は、日、月、星、一二本は神徳、一本は潔、七本は、(赤、黄、青、藍、緑、橙、菫)として、百瀬に渡る、ミヤビぬ線香、~~】   【完】



      
追記 
洋介が使った祝詞(ぐいす)。       

             

 御恩上(ぐうんあぎ)げ

 掛け巻くも畏き、諸神等の広前に恐み恐み申す。誠の線香、並びに種々のものを捧げ供えて、清き心の誠を先とし、神代の古風を崇め、正に素直の元に、帰り依りし邪の末の法を捨て、今神の道の妙なる業を願いて奉り、琉球の初めの払いを似って、称え事を、奉るこの有り様を平らげく、安らげく、聞こし召して、八百万の神達諸共に小男鹿の八つの恩耳を振り立て聞こし召せと申す。

 サリトウトウ、今日ぬゆかる日ゆかる時ぬむとぅにゆしりやびたる我身や、国頭郡国頭村伊地出身、稲嶺洋介でぇびる。ふるふるぬ年に、仲地遼子と結びをとり現住所に住まいかきてぃ、うやびぃん。生身親や、稲嶺洋三、夏子でーびる。御前にうすばゆいさびたる思事や、洋介一分からぬ火、水、御恩ぬ御送い、でぇびる。(墨ぇ知っちょうてぃん、物知らん)ぬとぅり、徳んねぇやびらん、事知らじあてぃなしてぃ、足うくりとぅやびたるくとぅや、悪っさうんぬきあぎやびぃん、うながみ美さながみてぃくみそぅち、受き取ってぃくみそうり、御捧いしある【百本ぬ線香】や十二本三本、三本や【日、月、星】又【御前へぬ】、うとぅいちじ,、十二本や【神徳】、一本や【潔】、七本や(赤、黄、青、藍、緑、橙、菫)百瀬にわたる【ミヤビ】線香。十七本や、(今、中、御先、天、海、人、縦、横、時、生、死、産、火、水、光、空、無、)を由とする【ウスリ】線香。二十四本や、(東、西、南、北、丑寅、辰巳、戌亥、未申、親、子、孫、夫婦、兄、弟、姉、妹、)ぬ、【火風水御恩】ぬ線香。三十六本や、(天、地、海、目、耳、鼻、口、身、意、道、業、黄金)、今、中、御先、三界までぃかきとうてぃぬ、【ふとちばれぇぬ】線香でぇびる。

御目付しみそうちゃる、御祖親、守護神、知らしみせぇる御祖親、先祖代々の御祖親また家内ぬふとうちばれぇ我身一分からふとぅかちくみそぉり、     

 古く御帳簿下げ、三十六本ぬ線香やミデエシンからふとぅかちくみそうり。洋介一分から新御帳簿あぎらちくみそうち自然ぬ大道、学ばちくみそうり、また、家内安全、家運繁栄、身体健勝、年中ゆがふかりゆし、御願げぇあぎやびら。今日や誠にしりがふうでえびる。サリトウトウ。



 
あとがき

 平成十一年、旧暦七月八日、『雅』と対をなす、ある言葉を捜しつづけて、たどり着けない、閉塞間を、打ち破るべく、一から始めようと、二十五年ぶりに、バリカンを入れた瞬間、「わあああ!」と洋介の様に、内なる叫びが、聞こえ、力が漲り、実際に北部伊地を巡礼し、年輪の無い、へごや、くばの木を見て、『潔』と言う言葉にたどり着き、その後、湧きでて来る、言葉を三日くらいで、書きとめたのが本著です。

 本文にもありますように、『オトコはもっと大変』という、自然からのメッセージを未熟さゆえ、理解することができず、混沌として下りましたが、『雅』+『潔』=『百』=『零』と言う循環を、私なりに理解してからは、一歩昆沌から抜け出せたと、思う今日この頃です。本文では、この循環についての、〈零〉をいか墨のお汁(黒)で表しています。

 《潔》について、具体的に触れていませんが、方言では《誠ぬ者(まことぬもん)》と言う日常適に存在する言葉が的を得ているような気がします。《雅》にしても、《チュラサ》、《ウムイ》、等他にそれを髣髴させる言葉が多くあり、

もちろん両方まだまだ多くの《ことば》があると思いますが、読者の皆様のご一報を頂ければ幸いです。

 本来は、遼子と、洋介の基本的な巡礼と神御仕立て(かみうしたて)まで、書くのが筋ではありますが、これからも遼子をとうして、続編を書いて行こうと思っています。本文でも少し触れた、万に一つの、本当に難解な『オンナのチヂウリ、ウスリ』を題材にする予定です。

 巡礼する場面で、判断した部分は、遼子が拝所で御恩上げする場面を、イメージし、実際に感とったもので、巡礼地も全て、現存する場所です。写真等は個人、ホームページに、掲載済みです。

 本文中に出て来る人物は、私以外は、架空の人物です。沖縄方言や、行事などに敢えて脚注など入れていませんが、読者の皆さんの、豊かな感性でご自由に読まれてください。

 既に巡礼された皆様には、もちろんですが、一般の読者の方にも、読むだけで少しでも効果が出る、リードヒーリングを意図して、第一章から、あとがきまで、九十九ページで終わる様に、編集しております。

 著というのも、はばかりますが、自作ゆへの、未熟さからくる誤字、脱字、また沖縄的な言いまわし、時代考証、、愚著ゆえの誤りは数ありますが、全て、初体験ということも、ご理解いただき、本著が少しでも皆様の、お役に立てれば幸いです。        

平成十一年九月十六日 
 与座 靖

   

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。